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『川淵三郎 キャプテン! 日本のスポーツ界を変えた男の全仕事』

【特別対談】川淵三郎×栗山英樹 W杯とWBCが見せたシン・スポーツの力<4>/『川淵三郎 キャプテン! 日本のスポーツ界を変えた男の全仕事』

 

栗山ジャパンに欠かせなかったヌートバーが教えてくれたこと


『川淵三郎 キャプテン! 日本のスポーツ界を変えた男の全仕事』


 Jリーグ、日本代表、日本サッカー協会会長、バスケットボールの各々において、固定概念に縛られない発想と行動力で周囲を動かし、日本のスポーツ史を変えてきた川淵三郎氏。その仕事のすべてが描かれた書籍『キャプテン! 日本のスポーツ界を変えた男の全仕事』がベースボール・マガジン社から発売された。本書に掲載された栗山英樹氏との特別対談の一部を抜粋し、不定期でお届けしてきた連載。最終回はWBCで侍ジャパンの一員として、一躍脚光を浴びたあの選手の話題から。

子どもたちにもっと多くのスポーツに触れられる選択肢を


川淵 WBCでヌートバー選手を一番バッターで起用するのは、日本国内にも候補選手がたくさんいるなか、相当な勇気が必要だろうなと思いました。結果的には栗山采配の、ひとつの成功のポイントになりましたよね。

栗山 この起用は、日本中の野球ファンから大批判を受ける可能性もあったわけですから、そこは最後まで慎重に考えました。川淵さんが30年前に僕に、日本人選手が世界で戦う日が必ず来るんだって、夢を語っていらっしゃったんですね。僕も考えました。メジャーにこれだけ選手が行って結果を出しているんだから、もう世界で野球をやるのが普通にならないといけない。日本選手が世界で戦う日が来たんだから、これからはメジャーで活躍するヌートバーが日本代表に入れば、日本のレベルの高さを、ほかの日本人メジャー・リーガーと共に証明する存在にもなるはずです。自分が何を言われてもいいから、彼をチームに入れようと決断しました。

川淵 それもまた大ヒットだった。ヌートバー選手は、今回の活躍はもちろんですが、僕はそれだけではなくて、アメリカのスポーツ、特に、子どもたちがスポーツでどんな風に育ててもらっているんだろうか、と、その良いところを体現している選手だと伺えました。アメリカンフットボールをはじめ、色々な競技を楽しんで、スポーツの幅を広げてきたバックグラウンドに注目していました。日本では、子どもたちが少なくなり、これからはサッカーだ、野球だ、と言っている状況ではありませんね。子どもたちのスポーツの環境をどう考えるか、大人たちの責任が本当の意味で問われます。

栗山 僕も同じように考えています。川淵さんが今、言われたように、いろんな幅で競技を考える視点で、ヌートバーもアメリカンフットボールを選ぶか、野球をするか、というレベルまで両方を続けていたそうです。子どもの頃から、そういう環境で育ったからでしょう。野球の日本代表選手でも、それこそ周東佑京は三笘選手に近いスピードを持っているんですよ。彼のような選手が他の競技でもトップレベルを維持できたら、と強く願います。ヌートバーが色々な競技に触れながらメジャー・リーグのレベルまでいっているので、僕らも考え直さないといけないですね。

川淵 僕が若い頃、運動神経のある選手は全員野球をやっていました。といっても、例えば昔は名門と言われる高校の野球部を見に行くと、150人ぐらい部員がいてもレギュラーで使われるのは20人ぐらいでしょうか。あと130人ぐらいは、ほとんどボール拾いと声出しだけで、「野球」をやってはいないんです。こんな無駄をやっているのかってずっと思っていましたね。だからこそ、いろいろなスポーツをやらせてあげて欲しいと願います。選手がスポーツをする理由は、試合が楽しいからです。アメリカみたいにシーズン制を取り入れ、大学を卒業する時にゴルフにいこうか、野球にいこうか、アメリカンフットボール、バスケットボールにいこうかと考える選手が出てくる。子どもたちに潤沢な選択肢を与えてあげられるのが、スポーツ一流国です。その点ではアメリカにはまだまだ敵わない。Jリーグが始まった時に、日本はスポーツ三流国です、と言いましたが、今やっと、二流国になったぐらいです。

栗山 WBCの優勝で久々に多くの方々に野球を見て頂いた手応えはありますが、川淵さんの今のお話でふと、優勝して良かった、メジャー・リーグの選手も参加した、ではなくて、この後を何かに繋げていかないといけないんだと気付きました。盛り上がったから良かったでは、僕らはダメですよね。確かに試合に出られない子どもたちの多さ、野球やサッカーに限らず課題があります。そういう問題意識を持つと、今回ここまで多くの方々に野球の優勝を喜んで頂いたのは、むしろ絶好のスタート地点だと考える、そういう捉え方をしないといけませんね。いろいろとヒントを頂きました。

川淵 野球、サッカー、日本代表という横串でこうして繋がった好機は、お互いに大切にしたいですね。日本のスポーツ界のために、もっと言えば日本社会のために、野球とサッカー、他の競技も力を合わせていければと心から願っています。栗山さんとこうして話していると、何だか不思議ですが、ずっと話していたくなりますね。選手の気持ちが分かります。本当にありがとうございました。

栗山 改めてキャプテンのお仕事を、僕らも学んでいかなきゃいけないと思いました。お会いできて感激しました。
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