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【高校野球】「運」「勢い」「準備」 慶応・森林貴彦監督が語った夏の甲子園制覇を果たした3つのキーワード

 

テーマは『〇〇が大事』


慶応高・森林監督は秋季県大会の組み合わせ抽選会で講話。出場81校の代表者[各校部員2人まで]の前で甲子園でのエピソードを披露した


 秋季神奈川県大会の組み合わせ抽選会が9月7日に行われた。今夏の甲子園で107年ぶり2度目の全国制覇へと導いた慶応高・森林貴彦監督が、出場81校の出席者(各校部員2人以内)の前で講話した。

 テーマは『〇〇が大事』。森林監督は慶應義塾幼稚舎の教諭であり、小学生を相手に学校生活を送っている。聞いている人に届く話術に長けており、分かりやすく説明した。神奈川大会7試合、甲子園5試合を勝ち上がり、深紅の大優勝旗を手にした中で、3つのキーワードを挙げた。

 まずは「運」。

 森林監督は甲子園での全国制覇までのターニングポイントを「広陵高との3回戦」と言い切った。相手投手は2年生の好右腕・高尾響。慶応高は序盤で3対0とリードも、ジワジワと追い上げられ、7回裏に3対3とされた。高尾は尻上がりに調子を上げ、森林監督は追加点を奪うのが厳しいと考えていた。9回まで同点でしのぎ、タイブレーク(無死一、二塁の継続打順)へと持ち込めば勝機はある、と。慶応高は10回表に3点を勝ち越し。「(追いかける展開で)裏の攻撃は打つしかない。守りやすい」と、無失点に抑えて逃げ切った。

「仙台育英との決勝。仙台育英は6試合目でしたが、ウチは5試合目。この1試合の差が大きかった。クジ『運』です。仙台育英は初日の第3試合で浦和学院と19対9と、2試合分ぐらいのゲームをした。大会初日から最終日まで戦い、想像していたよりも疲れていたのかと思いました。準決勝前日、決勝前日の休養日には2時間の割り当て練習があり、ウチの前に仙台育英が入っていました。入れ替わりのタイミングでご挨拶させていただこうかと思いましたが、到着したら2日ともすでに1時間で引き揚げたらしく……。そのときは『余裕なんだな』と思っていましたが、今思えば、疲労が蓄積していたかもしれません。実際、決勝では打線のバットが重いな、と」

 1回表、丸田湊斗(3年)の決勝史上初の先頭打者本塁打で慶応高は主導権を握り、8対2で歓喜のときを迎えたのであった。

「甲子園は基本、浜風なんです。ライトからホームへの風で、左打者は引っ張っても押し戻される。でも、立ち上がりは追い風だったんです。左打者の多い仙台育英が有利かな? と思いましたが、まさか、丸田に本塁打が出るとは……。そこには、天候の『運』があったわけです」

「いつも笑っているわけじゃない」


 2番目に「勢い」。

「圧倒的な力があれば優勝できますが、ウチよりも明らかに強いだろうな、というチームがありました。大会の中で勢いづくことが必要です。今回の場合は、横浜との県大会決勝で9回表に逆転3ラン。広陵との3回戦。目に見えるものではありませんが、そういう要素がないと、優勝へはたどり着けないんです」

 さらに、続ける。

「3回戦の高尾投手と、準々決勝で対戦した沖縄尚学・東恩納(蒼)投手は、ものすごく良い投手。好投手を見られていたので、決勝で対戦した湯田(統真)投手、高橋(煌稀)投手は『特別』には見えなかったんです。これから秋の県大会を控える皆さんも、(先入観を持たず)前向きに臨んでほしいと思います」

「運」と「勢い」を引き寄せるためにも、最後、取り組むべきは「準備」である。

 慶応高では夏本番を控えた6月から7月にかけて熱中症対策を実施。また、疲労対策としては、温冷の「交代浴」を取り入れ、睡眠時間にも気を使うようにしていた。

 また、今夏の甲子園で初めて導入された「クーリングタイム」(5回終了後、10分間の休憩)についても、万全の対策を立てていた。大会初日の第1試合で勝利した土浦日大高・小菅勲監督とは以前から旧知であったため、現場の状況を詳しくリサーチ。そして、翌日の割り当て練習からは、1時間、体を動かした後にクーリングタイムを設けた。5分間は水分補給、休憩、着替えに割き、3分半でミーティング、そして、残り90秒からは体を動かし始める。6回表が攻撃側の場合はスイング、守備側の場合はキャッチボール。2つを想定してクーリングタイム練習を積んだのだ。

 宿舎では相手校のデータを、徹底的に調べる。昨今は情報量があふれており、慶応高では大学生コーチ、高校3年生のスタッフが映像等を収集し、フル稼働で丸裸にする。ネット裏からの動画を宿舎内の宴会場の大型プロジェクターで映して、相手投手をイメージしながらスイング。雰囲気をつかむことができただけでも、精神的なアドバンテージとなるのだ。

「一度、経験しておけば、心のゆとりができる。人は皆、慣れないことには戸惑います。前日のうちに『やるべきことは、すべてやった!!』という状況にし、試合当日は『思い切ってやるだけ!!』とするのが大事です」

 甲子園大会を通じて、慶応高のモットーである「エンジョイ・ベースボール」が注目された。森林監督は「いつも笑っているわけじゃない。練習も地道にコツコツ。やっている練習はみんなと一緒です。ライバルであるみなさんと競い合って、私たちも頂点を目指して頑張ります」と話した。約20分の講話。部員たちは熱心に耳を傾け、自校へと持ち帰った。

 慶応高は「高校野球の常識を覆す」を信念に、既存概念にとらわれない、新たな挑戦を続けている。107年ぶり頂点奪取の背景には、指揮官のブレない指導力もあったのだった。

文=岡本朋祐 写真=BBM
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