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【高校野球】世界を驚かせて大会MVPなどタイトル4冠 横浜・緒方漣が監督の首にかけた金メダル

 

県大会決勝で無念の敗退


横浜高・緒方[右]はU-18W杯[台湾]で初優勝に貢献し、大会MVPを受賞。9月11日に帰国し、記者会見後、横浜高・村田監督[左]の首に金メダルをかけた


 2021年春、横浜高校の野球が変わると確信した。

 背番号6を着けたのは、1年生・緒方漣だった。入学から10日あまり、春の県大会初戦から遊撃のレギュラー。球際の打球に強く、スローイングも安定し、軽快な動きに目を奪われた。高校生で、守備で魅了できる選手は稀。しかも、入学したばかりの新入生である。

 前年12月、横浜高・村田浩明監督が「楽しみな選手が入学する予定なんですよ」と心待ちにしていたが、それが、緒方であったのだ。

 横浜高校の野球とは?

 渡辺元智元監督と小倉清一郎元部長が育て上げた、攻守にスキのないスタイルである。村田監督は恩師2人の教えを継承。体現したのが、緒方だった。堅守に加え、攻撃においてもバント、エンドラン、スチールなどを絡め、1点をもぎ取る機動力野球を実践した。

 1年夏、2年夏の甲子園出場。不動の遊撃手・緒方が横浜高の象徴となり、伝統の野球を進化させた。2年秋の新チームからは満場一致で主将に就任。1年夏から背番号1を着ける左腕エース・杉山遙希とともに、投打の二枚看板がこの3年、横浜高の屋台骨を支えた。

 村田監督はかつて勤務した神奈川の県立高校を2020年3月末で退職し、同4月に母校・横浜高の指揮官に就任。入学前から高校3年間、すべてに関わった最初の学年が主将・緒方の世代である。春のセンバツは関東地区の補欠校。甲子園をあと一歩で逃し、今夏にかける思いは相当であった。

 横浜高は神奈川大会決勝で慶応高に惜敗。2点リードの9回表、3年連続甲子園を決める最後の守りとするはずだったが、逆転3ランを浴びた。涙の結末。無念の敗退となった。

3年間の「感謝」を示して


 失意のどん底。だが、緒方の高校野球は終わっていなかった。侍ジャパンU-18代表20人に選出。攻守において細かいプレーを追求する、馬淵史郎監督(明徳義塾高監督)の野球に見事応えた。地元・台湾との決勝を制し、悲願の金メダル奪取に貢献。緒方は不慣れな二塁守備でも好守を連発し、世界を驚かせた。

 緒方は大会MVP、ベストナイン、首位打者、最多得点とタイトル4冠。チームは9月11日に羽田空港に帰国すると、村田監督と高山大輝部長が到着ゲートで出迎えた。恩師2人は、会場後方で記者会見にも耳を傾けた。

 一連の取材が終わり、チームは解散。各選手は帰路についた。緒方は村田監督に帰国のあいさつをすると、金メダルを首にかけた。そこに、言葉はいらない。緒方は3年間の「感謝」を示した。村田監督から教えてもらった横浜高校の野球を、最後まで貫いた。取り組んできた練習が正解であることを証明した。

 緒方の粋な計らいに、村田監督は晴れやかな表情を見せた。今夏、甲子園の土を踏むことはできなかったが、緒方は確かな足跡を残した。先輩の雄姿を見て、後輩たちも何かを感じたはず。次世代へと、歴史をつないだ。

文=岡本朋祐 写真=田中慎一郎
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