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最強の2番手捕手から進化…阪神の前主将に「MVP級の活躍」の称賛が

 

キャプテンシーを持つ男


優勝を決め、マウンド付近で捕手の梅野と抱き合って喜んだ坂本


 阪神が9月14日の巨人戦(甲子園)で18年ぶりのリーグ優勝を決めると、マウンド上付近でナインがなだれ込んで歓喜の輪が何重にもできた。マスクを脱いだ坂本誠志郎は、胴上げに駆けつけた梅野隆太郎と笑顔で抱き合っていた。

 抜きん出た強肩を持っているわけではない。打撃でも際立った存在ではなかった。だが、この男がマスクをかぶるとチーム全体が落ち着く。履正社高、明大、大学日本代表の各世代で主将を務め、阪神でも、2021年オフにファン感謝デーで実施された選手間投票による新キャプテン総選挙で主将に選ばれた。当時明大の監督だった善波達也氏は週刊ベースボールの取材で坂本を主将に抜擢した経緯について、「最終的に私が判断するんですが、過去にはスタッフ、マネジャー、下級生まで聞くこともありました。人と相談しないで決めたのは初めてです。観察力、人をよく見ている。良い素直さがあり、頑固さもあり、人としてのバランスの良さがある」と人間性を絶賛していた。

挑戦者の立場からスタート


 プロ8年目の今季は挑戦者の立ち位置だった。昨年は自己最多の60試合に出場したが、岡田彰布監督は梅野をレギュラーで固定する方針を示していた。信頼を積み重ねるには結果で示すしかない。坂本は投手の能力を最大限発揮するリードに全力を注いだ。すると、バッテリーを組む大竹耕太郎村上頌樹が2ケタ勝利を挙げて大ブレーク。2人が先発する試合は必ずマスクをかぶった。2学年上の梅野とはライバルでありながらも、尊敬する先輩として切磋琢磨しながら互いを高め合ってきた。

 大きなアクシデントが起きたのは、8月13日のヤクルト戦(京セラドーム)。梅野が死球を受けて途中退場すると、大阪市内の病院で検査を受けた結果、「左尺骨の骨折」と診断された。今季中の復帰が絶望となり、坂本は15日の広島戦(マツダ広島)から先発マスクをかぶり続けた。

 巧みなリードだけでなく、打撃でもチームに貢献する。9月2日のヤクルト戦(神宮)で2点を追いかける3回に先頭打者で、ディロン・ピーターズの内角に食い込むカットボールを左前にはじき返す安打で出塁。この一打が打線に火をつけて一挙6得点のビッグイニングに。6回も左中間二塁打を放った。西勇輝が今季初完封勝利を飾った12日の巨人戦(甲子園)でも、貴重な一打で決勝点を呼び込んだ。0対0の2回一死一塁でフルカウントまで粘ると三塁に内野安打を放って一、三塁と好機を拡大。木浪聖也の先制犠飛につなげ、虎の子の1点を守り切った。

数字だけでは測れない魅力


 今季は自己最多を塗り替える70試合出場で打率.229をマーク。だが、坂本の魅力は数字だけでは測れない。阪神を取材するスポーツ紙記者は絶賛する。

「捕手に求められる一番の資質はチームを勝たせることだと思います。グラウンド上の司令塔ですから。坂本はその言葉が似合う捕手です。フレーミング、ブロッキングを含めた捕手としての技術だけでなく、投手に安心感を与える雰囲気がある。梅野がいますが、最強の2番手捕手という枠を超えた選手だと思います。大竹、村上が素質を開花させたのも坂本の存在があってこそ。MVP級の働きぶりだと思います」

 坂本は梅野との定位置争いについて、20年4月に週刊ベースボールの取材でこう語っていた。

「同じチームにゴールデン・グラブ賞の人がいて近くで勝負できるなんて、すごく幸せなこと。もし、そんな環境で成功できたらおもしろいじゃないですか。僕はホームランを30本打つことはできない。でも、捕手としてチームに5勝をプラスできる可能性はある。そこに懸けるのがプロだと思っています」。

 CS、日本シリーズの短期決戦は捕手の配球が勝負の命運を左右する。リーグ優勝した喜びの余韻に浸る間もなく、坂本の戦いは続く。

写真=BBM
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