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若鷹ファーム奮戦記

地域と連携し活性化につなげるホークスの取り組み【若鷹ファーム奮戦記VOL.7】

 

 ホークスがファーム拠点を福岡県筑後市に移転したのが2016年シーズンのこと。絆を深めながら野球振興および地域連携に手を取り合って活動を行ってきた答えが人口増という形で1つ示された。一方で課題も浮き彫りになったが、球団は解決・改善すべく様々な施策を行い、地域の活性化に寄与している取り組みを紹介する。

筑後市が488人の人口増を記録


人口増の大きな要因となったタマスタ筑後を含むHAWKSベースボールパーク筑後の開業


 HAWKSベースボールパーク筑後が開業して以降で初の国勢調査となった2020年度分が昨年発表された際に、筑後市は人口減で悩む地方の周辺市町村とは対照的に前回調査から488人の人口増を記録したことが明らかになった。2010年の国勢調査で4万8512人の人口が2015年には4万8339人と173人減少したが、2020年の調査では4万8827人に。ホークスのファーム移転が関係しているのは間違いないと言っていい。

 同市の西田正治市長も、昨年11月のホークスの4軍発足が発表された際の会見の席で「筑後という名前が全国的に認知されたと思います。ファームから1軍に上がった若い選手が活躍してくれると『筑後ホークス』と呼ばれたり」とし、「周りの市町村の首長さんからは『ホークスが来たからね』『筑後市は活気がある』と言われます。人口が増えている一因として大きな要因だと思います。若い世代の転入者も多く、小学校の教室も増やしているところ」とその効果や実感を口にしていた。

 その一方で年月が経過していく中で課題も浮き彫りに。筑後の球場は賑わっても、筑後の市街地や周辺地域への観光需要はまだまだ掘り起こす余地があると思われる。

 筑後市役所の商工観光課ホークスファーム連携推進担当の水田進係長も同調する。

「もともと筑後市は周辺地域に比べて観光資源や特徴という意味では乏しい街でした。柳川市ならば“水郷”、八女市ならば“お茶”、大牟田市には“炭鉱の坑跡”など。ホークスが来るまでは筑後という名前そのものがあまり知られていなかったと思いますが、今や『筑後=ホークス』となり、タマスタ筑後が開業して以来、本当に多くの方に訪れていただけるようになりました。しかし、ほとんどの皆様が筑後市の球場以外の場所を訪れることなく帰られてしまうという課題があるのです」

 HAWKSベースボールパーク筑後の目と鼻の先には九州新幹線・JR在来線の筑後船小屋駅がある。また、車で来場しても最寄りのインターチェンジ(八女IC)から球場まで最短ルートで行くと筑後市街地は通過しないのだ。「筑後市の中心部の駅は、筑後船小屋駅の1つ隣の羽犬塚駅。たとえば、その駅前商店街を『ホークス通り』と名付けたりできれば一体感が醸造できて雰囲気も変わってくると思いますが、いくつかクリアすべき課題もあり現時点ではできていない状況です」(水田係長)


「筑後七国デー」を9月2日に開催


FM福岡と手を組み約1カ月にわたりホークスのファームや筑後七国のPRを実施


 それは筑後市のみならず周辺地域も同様の課題を抱えているが、それを解決・改善すべく一歩踏み込んだ取り組みを行ったのが、今年9月2日に開催された「筑後七国デー」だった。筑後は市名でもあるが、福岡県には「筑後地方」という言葉もある。県を4つの地域(筑後のほかに福岡地方・北九州地方・筑豊地方)に分割したうちの一つで、福岡県の南部地域の呼称として用いられる。そのうち、「筑後七国」は、タマスタ筑後の最寄り駅である筑後船小屋駅を中心地点として繋がる5市2町(柳川市・八女市・筑後市・大川市・みやま市・大木町・広川町)の通称だ。ホークスと筑後七国は、移転が決まってまもない2014年7月に地域連携協定を締結していた。そのため筑後七国デーはタマスタ筑後開業当初から毎年のように行われている恒例イベント試合だ。

 試合前セレモニー、花束贈呈や始球式などを地域の方々が担ったり、球場外では各地域の特産品や土産物や「うまいもの」を販売する特設テントが並んだりする。球団は来場者促進につながるし、各自治体にとっては大きくPRできる場となり、双方にメリットのある取り組みだ。ただ、福岡ソフトバンクホークスの野球事業推進本部 筑後事業推進部部長・井上典之氏はテコ入れをしなければと思案したという。

「筑後七国デーはお客様にも各自治体にも大変喜んでいただけるイベントなのですが、その冠試合の日のみで終わってしまうといった課題や、より地域の活性化に寄与するための取り組みが何かできるのではないかと考えたのです」

マスメディアと手を組む


 どうやって長期間にわたりホークスのファームの魅力、筑後七国のPRをするか。井上部長はマスメディアと手を組むことにした。ラジオ局FM福岡と話をして、同局の看板番組「DIG!!!!!!!!FUKUOKA」で4週にわたりホークスのファームや筑後七国の情報を伝えるコーナーを設けてもらった。

「これまではその日限りだったイベントが、約1カ月にわたり、しかもメディアを通してかなり多くの皆様に周知することができました」

 当日は同番組の人気パーソナリティーで福岡では認知度も高いBUTCHさんと愛智望美さんも来場して盛り上げに一役買ってもらった。また、今年は「筑後七国セット券」というチケットを販売(筑後七国デー以外にも対象試合あり)した。筑後七国の利用可能店舗の商品券または割引券がセットになっており「野球も見て、筑後七国の観光スポットやお店も訪れる」とプロ野球と地域の連携をより具現化した。

10月15日には「ちっご祭2023」のステージを運営


 この秋にはホークスと筑後市でまた新たなコラボも実施される予定だ。10月15日に実施される筑後市最大のお祭り「ちっご祭2023」のステージ運営をホークス球団が行うことになった。当日の詳細は今後詰めていくことになるが、たとえば元選手のトークショーを行ったり、ホークスパフォーマンスチームがダンスを披露したり、普段は球場でしか味わうことのできない楽しみを街の中でふれることができる。お膝元とはいえ、まだタマスタ筑後やPayPayドームに足を運んだことのない方も少なからずいる。新規のファン獲得という意味でも球団が地域と手を組んで様々な施策を行うのは、大きな意義を持つに違いない。

文=田尻耕太郎 写真=福岡ソフトバンクホークス
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