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【大学野球】「明治に勝たないと、優勝はない」小宮山監督の執念が選手に伝わり早大が明大に逆転で先勝

 

「早稲田全体で、明治全体を攻略する」


早大の2年生右腕・伊藤樹は明大1回戦でリリーフ登板し、9回の1イニングを無失点に抑えた[写真=矢野寿明]


 東京都西東京市内にある早稲田大学野球部の安部寮。正面玄関を入り、すぐ左手の応接室に隣接して監督室がある。

 2019年1月1日から母校を指揮する小宮山悟監督は毎日、早朝に安部寮へ入り、午前の練習(授業期間中はグループに分かれての時間別練習。シーズン中は一軍、二軍に分かれてのメニュー)から夕方の練習が終わるまで、安部球場から離れることはほぼない。

 小宮山監督の人生の師である石井連藏元監督は、熱血漢として知られた。そして、かつて早大史上初のリーグ4連覇へと導いた野村徹元監督は「日本一、グラウンドにいる時間が長い監督」と言われた。石井元監督の第1期監督時代(1958年〜63年)の教え子が野村氏であり、第2期(88年〜94年)が小宮山監督。100人以上いる部員全員に、目を光らせる。実戦で結果を残せば、チャンスを与える。その過程を見逃してはならないポリシーがある。「安部球場=神宮球場」。早大の試合のための練習という伝統の下、指導を続けてきた。

 しかし、今秋ばかりは「事情」が違った。

 東京六大学リーグは今春まで明大が3連覇を遂げ、この秋は85年ぶりの4連覇がかかっている。早大は2020年秋を最後に天皇杯から遠ざかっており、この秋にかける思いは相当だ。

「明治に勝たないと、優勝はない。とにかくミスのない野球をやって、何とか食らいつく。最初に我々が明治に土をつければ、リーグ戦全体も盛り上がる。何が何でも勝ちたい」(小宮山監督)

 早大は東大との開幕カード(第2週)を連勝で勝ち点を挙げた。明大との第3週を控え、小宮山監督は一軍の練習が終わると、徒歩3分の安部寮に上がり、監督室にこもった。徹底的に明大を研究したのである。

「金森(栄治)助監督には、二軍以下を丸投げにする形となってしまいました。負担をかけましたが(明治に)勝つことで報われる」

 早大は明大1回戦(9月23日)を逆転で先勝した。3対3の8回裏二死二塁から五番・吉納翼(3年・東邦高)が左越え勝ち越し適時二塁打。続く中村将希(4年・鳥栖高)が左前でつなぎ、代打・野村健太(4年・山梨学院高)が遊撃手の頭を越す気迫の一打(中前打)で、リードを2点に広げた。

 先発のエース右腕・加藤孝太郎(4年・下妻一高)は7回3失点で粘ると、8回は左腕・齋藤正貴(4年・佐倉高)が3人でしのぎ、9回は右腕・伊藤樹(2年・仙台育英高)が3人で仕留めて、早大は5対3で逃げ切った。殊勲打の吉納は言った。

「早稲田全体で、明治全体を攻略する」

チームの浮沈を左右する存在


主将・森田は今春、体調不良により、登録を外れることもあったが、この秋は元気にベンチ入り。ベンチを鼓舞し、代打の切り札としてもスタンバイする[写真=矢野寿明]


 一塁ベンチは主将・森田朝陽(4年・高岡商高)を中心に「打倒・明大」へと一致団結していた。小宮山の執念が、選手に伝わったのである。三番手の伊藤樹は開幕の東大2回戦で先発し、5回2失点でリーグ戦初勝利も、明大1回戦はブルペン待機。この日はプロ併用日のため、連盟規定により9回打ち切り。小宮山監督は伊藤樹の終盤の起用を模索していた。「勝てる試合を拾わないと。一番、良いボールを投げる。先発ではたくさんアウトを取ってくれる可能性がある」。伊藤は「1イニングを出し切って抑えてやろう」と、全力で腕を振った。小宮山監督は学生の声にも耳を傾けた。東大の開幕カードからの打順変更についてのリクエストがあり、その声を受け入れたのである。つなぎの攻撃。明大1回戦で結果として出たのは、何よりであった。

 早大は先勝したが、東京六大学リーグ戦は2勝先勝の勝ち点制である。2回戦をどう取りにいくのか。小宮山監督は「キーマン」として口には出さずとも、2年生右腕・伊藤樹の働きが浮沈を左右する存在であると言及した。

「今日投げたから、明日は休み。そんなことを言っているようでは、プロには行けません。私の現役時代の成績を渡してある。(伊藤樹は)理解していると思います」

 小宮山監督は「この夏が勝負だ!」と、8月の新潟・南魚沼キャンプを前に自身の経験談を伝えた。「2年秋に防御率1位、3年春から土曜日(1回戦)の先発を任され、4年秋まで務め上げ、ドラフト1位で指名された」。伊藤樹も2年後のドライチを目指しており、今秋への思いは強い。仙台育英高時代から「大器」として騒がれた伊藤樹の投球に注目だ。

 指揮官の勝負へ対する執着心。学生たちは安部球場で鍛錬した練習の成果を、神宮球場で「形」にするだけである。

文=岡本朋祐
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