「右悟に頼りきりなのは、良くないと思う」
慶応高は神奈川県大会準々決勝敗退。主将・加藤[右]は試合後の会見で涙が止まらなかった。中学時代からバッテリーを組む小宅[左]は、心配そうな表情を見せた
2023年夏の甲子園決勝(8月23日)。全国3744校の頂点に立つ胴上げ投手に輝いたのは慶応高の2年生右腕・
小宅雅己だった。
歓喜の全国制覇から1カ月。慶応高は桐光学園高との神奈川県大会準々決勝(9月24日)で敗退した。先発した小宅は7回途中3失点。マウンドを甲子園決勝で先発した左腕・鈴木佳門(2年)に譲ったが、9回表にコンディション不良により降板。小宅が再登板したが、追加点を奪われ、0対4で敗れた。来春のセンバツ出場は事実上、絶望的となった。
新チームからバッテリーを組むのは主将・
加藤右悟(2年)。中学時代に在籍した県央宇都宮ボーイズからのコンビだ。旧チームからの野手レギュラーは、右翼手を守った加藤のみ。試合後の記者会見場で、加藤は嗚咽を漏らしていた。以下は、テレビ取材の質疑応答だ。
――敗因は?
加藤 僕が打てなくて……。力が足りなかったです。(号泣)
小宅 加藤と組んでいると、明るくなりますし。自分がピンチのときでも心の支えになってくれるんで。これから1年間、やっていく上で、いいバッテリーになっていくのかなと思います(加藤をフォローするように話す)。
加藤 センバツに出たかったんですけど……(号泣)。試合でも練習どおりの力が出せるチームになりたいです。
――今後はどんなチームにしていきたいか?
小宅 前回のチームと比べられてしまうと思うが、自分たちができる最大限の努力をして、一人ひとりが成長していけば良いチームになるのかなと思います。
テレビ取材後はペン取材。加藤は一度、気持ちを落ち着かせるため、ロッカールームに下がった。小宅は甲子園では先発、抑えに全5試合で投げた。夏からの疲労を問われた。
「自分の中で調整はしてきましたが正直、疲れは残っている。大会が始まって、思い始めて……」
練習を積み上げてきた3年生ならまだしも、2年生には酷だったようだ。小宅はエースとしてコメントを残している。
「右悟に頼りきりなのは、良くないと思う。一人の力では勝てない。チーム力で勝っていきたい。来春には神奈川を制覇できるようなチームにしていきたいと思います」
監督が語る主将の貢献度
ペン取材を終えて約10分後、加藤が記者会見場に戻ってきた。椅子に座って対応。まだ、涙は止まらなかった。森林貴彦監督は主将・加藤の貢献度ついて、こう話していた。
「キャプテンで、捕手で、三番打者で、重たかったと思うんで、彼の一番いいところは、野球大好き、野球楽しいというところ。それを忘れないように、目の前の野球を楽しみながらレベルを上げていこう! という話をしたいなと思います。負けたから全部否定されるとか、勝ったからすべて良かったとか、そういうことではないんで。当然、神奈川でやっていて、勝ち負けはあって当たり前なんで。桐光さんは毎年、強いので……。波乱でもない。(県の)上位チームは紙一重の中でやっている。この負けを生かせるようにやっていきます」
指揮官の「野球大好き、野球楽しい」との言葉を伝えられると、加藤は嗚咽を漏らした。
「森林さんが声をかけてくれて……。勝たせることができず、悔しいです。まだ、ここで終われないので、絶対、負けないチームになっていきたいです」
「全国制覇」という、あまりに重い十字架を背負っていた加藤。報道陣から問われた、プレッシャーについては「特になかったです」と話した。高校野球は毎年、メンバーが変わる。周囲は旧チームとの比較をしたがるが、新たな体制になって、同じチームを作れるはずはない。慶応高のモットーは「エンジョイ・ベースボール」。自ら考え、実行に移し、もがき苦しんだ末に、初めて、楽しさを共有することができる。負けを教材にするだけの能力がある慶応高。主将・加藤以下、真価が問われるのはこれからだ。
文=岡本朋祐 写真=藤井勝治