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【大学野球】85年ぶりの4連覇を目指す明大に見当たらない死角 意識レベルの高い学生が切磋琢磨する日々

 

ベストナイン捕手を先発から外す


明大の副将・菅原は早大3回戦の7回表、2点目の左前適時打を放った[写真=矢野寿明]


 指揮官は流れを変えるために、決断した。明大は早大1回戦を3対5で落とすと、田中武宏監督が動いた。リーグ3連覇に貢献した春のベストナイン捕手で、準優勝の全日本大学選手権で敢闘賞の小島大河(2年・東海大相模高)を、2回戦の先発から外したのである。

「小島に迷いが出だしたので……。頭を整理させようと思いました」(田中監督)

 代わりにマスクをかぶったのは、副将・菅原謙伸(4年・花咲徳栄高)だった。4年春までの通算5試合は、すべて途中出場。ラストシーズンの4年秋にして、リーグ戦初先発を任されたのである。田中監督は「謙伸は常に投手を作ってくれている」と、全幅の信頼を寄せて、グラウンドに送り出した。

 明大は2回戦で雪辱(5対2)。菅原は先発の左腕・石原勇輝(4年・広陵高)の良さを引き出す好リードで、6回途中2失点に抑えた。勝ち点をかけた3回戦は右腕エース・村田賢一(4年・春日部共栄高)が6回無失点、7回からは右腕・浅利太門(3年・興國高)が3イニングを抑える完封リレー(2対0)を演出した。菅原は1対0で迎えた7回表、貴重な追加点となる左前適時打を放っている。

 田中監督は試合後、菅原の働きを称えた。

「(2回戦で)早稲田さんの打撃を1回、崩してくれたんです。(3回戦も)尾を引いていたようで、迷っているのが分かった。あとは攻撃が点を取るだけでした。春はほぼ小島でしたが、下級生(2年)の遠慮、捕手としての経験値も(菅原とは)違う。夏場も謙伸は『いつか来る』と真摯に取り組んでいました」

捕手・菅原[左]は早大3回戦で先発した明大のエース・村田[右]を、6回1安打無失点の好リードで導いた。「全球種でストライクが取れる」と絶賛する[写真=矢野寿明]


 ベンチ、ブルペンを温める時間が多かったが、その日に備えて万全の準備を進めてきた。決して自身は目立とうとしない。黒子に徹する。明大は1回戦を落としてからの連勝。崖っ縁から無類の強さを発揮するのが、伝統である。

「投手が根気強く、我慢強く抑えてくれた。それも、アナライザーが分析した成果。裏方の力です。明治の粘り強さ。先輩方が築き上げてきたものを、受け継いでいかないといけない。点を取ることより、抑えるほうが大事」

 自身の適時打についても「打てて良かったです」と語るのみで「ゼロに抑えること」と、9イニングを0で並べた達成感のほうが、はるかに大きかった。職人気質が漂っている。

 この2戦を通じて、さらに深い信頼を得たものの、レギュラー安泰ではない。田中監督は「小島も黙ってはいない。(菅原と)どちらでも、同じようにやってくれる。良い形で競り合ってほしい。2人の他にもいますから」と、さらなる競争を促している。すぐ右横で、菅原は指揮官の言葉にうなずいていた。

 激しいチーム内の定位置争いを経て、先発9人がアナウンスされる。誰が出場しても、神宮で結果を出す。常に漂う危機感あるムード。目指すは85年ぶりの東京六大学リーグ4連覇。意識レベルの高い学生が日々、切磋琢磨する明大に、死角は見当たらない。

文=岡本朋祐
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