「4打席立って、結果を出す選手」
打球を遠くに飛ばす能力は抜きんでたものがあるミエセス
18年ぶりのリーグ制覇を飾った
阪神。歓喜のビールかけで話題になったのが、
岡田彰布監督とヨハン・ミエセスの掛け合いだった。
大仏のかぶり物を頭に装着したミエセスを確認した岡田監督は、「ミエちゃん主役ちゃうよ、今日は」と一言。ミエセスが「ソンナノカンケイネェ!」と絶叫し、会場が爆笑に包まれた。岡田監督が「ミエちゃん、あの、成績にちなんだ暴れ方をしてください」と再びツッコミを入れると、ミエセスは「ソンナノカンケイネェ!」と連発。ビールかけでは、指揮官に両手でビールを浴びせた。愛すべきムードメーカーは、強い絆で結ばれたチームを象徴する存在だ。
来日1年目の今季は60試合出場で、打率.222、5本塁打、16打点。助っ人外国人の成績としては物足りなく感じてしまうが、レッドソックスのマイナーから入団した当初から即戦力という触れ込みではなかった。開幕は二軍スタートで、5月5日に一軍昇格。同日の
広島戦(マツダ広島)に「六番・右翼」でスタメン起用され、来日デビュー戦で6回に左腕・
塹江敦哉から左中間越えソロで初アーチと強烈にアピールした。16日の
中日戦(豊橋)では来日初の決勝打。18日の中日戦(バンテリン)では初回二死満塁の好機で、
柳裕也から三塁線を破る走者一掃の適時二塁打を放ち、右手で目元付近にピースする「ギャルピース」を披露。外野の守備でも右翼への痛烈なライナーを好捕した。
岡田監督は週刊ベースボールのコラムで、「当たれば遠くに飛ぶことは分かっているけど、なかなかそれが当たらない。まあ、これからよ。代打でいくタイプではなく、4打席立って、結果を出す選手だし、経験を積んでいけば、大化けする選手のはず。そこに期待やね」と語っている。
来日当初から打撃に変化
大きな魅力はチームトップクラスの飛距離だ。2021年の東京五輪にドミニカ共和国代表で出場。3位決定戦の韓国戦で、かつて阪神の守護神を務めた
呉昇桓から豪快な一発を放り込み、球場がどよめいた。メジャー経験はないが、昨年はレッドソックス3Aウースターで本拠地ポーラー・パークのスコアボードを越え、後方を通過する列車に直撃する特大アーチを放っている。
6月以降は代打での出場が主になったが、他球団のスコアラーは来日当初と比較して変化を口にする。
「外に逃げるスライダーに手を出さなくなりましたね。長距離砲だけど振り回すのではなく、きっちりボールを見極めるようになっている。変化球への対応力が上がれば打率、本塁打は自然に積み上がっていく。メジャーで実績がないが、昨年ブレークした
巨人の
アダム・ウォーカーに似ています。来年以降に大化けする可能性は十分にあるでしょう」
バルディリスのように
無名の助っ人外国人が、日本でサクセスストーリーを切り拓く。思い出されるのが、かつて岡田監督の下でプレーした元阪神のアーロム・バルディリスだ。テスト生として08年に育成枠で入団すると、シーズン途中に支配下昇格。堅実な守備と勝負強い打撃が光る優良助っ人だった。
09年限りで退団した際は複数球団が獲得に興味を示したが、岡田監督が
オリックスの監督に就任すると共にプレーすることを熱望して移籍。4年間プレーし、
DeNAでも好守の中心選手として活躍した。NPBで計8年間プレーし、全12球団から本塁打を達成。通算918試合出場で打率.268、93本塁打、387打点を記録した。
阪神を取材するスポーツ紙記者は「陽気な性格で知られるミエセスですが、野球に対しては勉強熱心で首脳陣の助言に耳を傾けている。日本球界で成功したいという思いがひしひしと伝わってきます」と証言する。
クライマックスシリーズ、日本シリーズでも大事な役割を担うことになるだろう。ハッスルプレーとギャルピースで、チームの起爆剤になる。
写真=BBM