金田正一さんに聞いてみた

　11月7日、元阪神-大洋のダンプさんこと、辻恭彦さんの著書『猛虎二番目の捕手』が発売されます(すでに並んでいる書店もあるようです)。タイトルどおり1962年途中から1974年までの阪神時代のお話です。

　大洋時代以降は、この本が好評ならそのうちまたと思っています。

　以下はそのチョイ出し。今回は名バッテリーと言われた江夏豊との話です。

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　江夏は時々、サインを無視して棒球をど真ん中に投げてくることがありました。まず打たれないけど、こっちはヒヤヒヤです。

「なんであんな球を投げるんだ」と言っても、向こうはニヤニヤするだけでした。

　理由が分かったのは、あいつからじゃない。昭和44年(1969年)、田淵幸一が入ってきたときです。

　仙台遠征で巨人にいた金田正一さんが、対談取材で、田淵を宿舎に呼んだときがあったんです。金田さんは高校の大先輩なので、頼んでついていったら、2人で少し話すチャンスがあって、「江夏が真ん中にすうっと投げてきて、マウンドで笑っているんですよ。なんですか、あれ？」と聞いた。

　そしたら、「あのな、100勝以上勝っている投手は自信がつくんだ。そうすると、相手の打ち気が見えてくる。だから投球フォームに入ってからでも打者がこれは打たんとなったときが分かって修正できるんだ」

「あいつ、100勝なんかしてないですよ。3年目ですし」と言ったら「だからすごいんだよ」って言って笑っていました。

　このころになると、僕も打者の打ち気自体は分かっていたつもりですが、あんなに棒球を投げさせる勇気はありませんでした。