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【高校野球】指揮官がかけた魔法の言葉 約3カ月で見違えるような成長を示した作新学院

 

努力を重ねられるチーム


作新学院高は明治神宮大会準優勝。多くの収穫と課題を栃木へ持ち帰る[写真=矢野寿明]


[明治神宮大会高校の部・決勝]
11月20日(神宮)
星稜(北信越/石川)3−1作新学院(関東/栃木)

 魔法の言葉だった。

「現時点では弱い。でも、2〜3カ月後には勝てるようなチームになるかもしれない」

 新チームが発足した7月30日、作新学院高・小針崇宏監督は部員たちの前でこう言った。

 学生野球とは、メンバーが入れ替わるのが常。作新学院高は今春のセンバツ甲子園で8強に進出しているが、メンバー18人のうち、2年生以下は右腕・小川哲平と捕手の岩出純の2人のみだった。栃木大会決勝で敗退した今夏も3年生中心のメンバー構成。経験不足は明らか。2016年夏の甲子園で全国制覇へ導いた小針監督は「県大会で1回、勝てるかのチーム力」と、相当な危機感を抱いていた。

 そこで、冒頭でのミーティングだった。

「勇気づけるわけではないが、希望を与えた。その火を消さずにきた」

 小針監督は母校を春3回、夏はコロナ禍の中止を挟み10大会連続を含む11回の甲子園出場へ導いてきた。筑波大を経て23歳で監督となり、今年6月で40歳。指導キャリアを重ね、生徒を見る目は確かである。だからこそ、生徒たちに発信したメッセージだった。もちろん、裏付けがあった。

「コツコツと練習をしたら強くなる。野球に対する姿勢が真っすぐ、純粋。まだまだ下手ですが、頑張れる。吸収力、学んでいく姿勢があり、努力を重ねられるチームなんです。試合ではよく言う粘り。変化に対応できる」

 主将・小森一誠(2年)を中心に、ひたむきに取り組んだ。合言葉は「一致団結」。作新学院高は栃木県大会を制すと、関東大会では7年ぶりの優勝。関東代表として出場した明治神宮大会では2試合を勝ち上がり、最後は星稜高との決勝で惜敗した。147キロ右腕エース・小川哲にサイド右腕・石毛虹晴(2年)が台頭し、岩出の好リードも光った。守りも球際に強く、泥臭くアウト一つひとつを積み重ねる姿勢が徹底。打線はコンパクトなスイングで、つなぎのスタイルが浸透されていた。

特別な相手だった星稜


 約3カ月で見違えるような成長を遂げたが、頂点にはあと一歩、届かなかった。

「チームでは2回勝つことができたが、戦う上での体力、スピードとパワーの差を感じました。勝つための野球力も不足している。関東大会、神宮大会を通じて対戦した学校さんと比べても、自立した実力がありません」

 冷静に振り返った。決勝で対戦した星稜高は特別な相手だった。小針監督は2009年、日本高野連主催の「甲子園塾」に参加。塾長はかつて星稜高を率いた山下智茂氏であり、18年には特別講師として指導した深い縁がある。

 現チームは山下元監督の長男・智将氏が率いており、恩返しの場であったのだ。

 作新学院高は来春の2年連続でのセンバツ出場が当確の立場にある。開幕は3月18日。まったく先の見えなかった新チーム結成時から、この冬場は甲子園という具体的な希望に向かって練習ができる。エース・小川哲は「春は変わった姿を見せたい」と言った。約4カ月、小針監督の言葉力でナインはさらに強くなる。

文=岡本朋祐
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