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【高校野球】メジャー・リーガーも視野に…2024年は東京の「秀才ドラフト候補」に注目だ

 

3年間貫く「文武一道」


桐朋高グラウンドで取材に応じた森井。将来の夢を語った[写真=田中慎一郎]


 学校のホームページに2023年度の大学入試結果が掲載されていた(数字は既卒を含む)。

【主な国公立大】
・北海道大12人
・横浜国立大10人
・東大9人
・一橋大8人
・東北大6人
・京大4人
・名古屋大3人
【主な私立大】
・早大76人
・慶大60人
・上智大42人

 東京都国立市内にある桐朋高は1941年創立で、都内屈指の進学校として知られる。野球部は2003年秋に都大会8強。翌春のセンバツ21世紀枠の「関東・東京」の地区推薦校に選出されたことがある。10年夏の西東京大会では16強進出。当時のエース右腕・初馬眞人が東大で活躍すると、後輩たちも続いた。

 東大は左腕エース・宮台康平(元日本ハムほか)を擁した17年秋に法大から勝ち点を挙げているが、当時の主将で遊撃手の山田大成、中心打者の楠田創(同秋にベストナイン受賞)が桐朋高の卒業生だ。この17年は齋藤柊馬(当時4年)、宇佐美舜也(同3年、4年時に主将)、宇佐美尭也(同1年)、石元悠一(同1年、3年秋に大学日本代表候補合宿参加)と同校の卒業生6人が在籍していた。慶大でも右腕・太田力が2015年から18年まで在籍し、リーグ戦で3試合に登板している。2023年は立大の4年生・齋藤舜、早大の2年生・中島稜太が選手登録されていた。

「文武両道」と、勉強と部活を50パーセントに分けるのでなく、双方を100パーセント全力で取り組む、部訓の「文武一道」を3年間貫く。そして、高校卒業後は東京六大学野球、神宮を目指す一つの流れが確立されている。

 進学志向が強い校風の中で、森井翔太郎(2年)は「東京六大学は考えませんでした。高卒プロが第一志望です」と、NPBドラフトでの指名を目指している。遠投110メートル、100メートル走11秒6という抜群のポテンシャル。投げては最速146キロ、強打の左の内野手(三塁手、遊撃手)として、高校通算26本塁打。投打で可能性を秘めた「二刀流」だ。

コロナ禍で休校の期間に


最速は2年秋の東京大会1回戦でマークした146キロ。計測器では今春、150キロの大台に達したことがあるという[写真=田中慎一郎]


 桐朋学園小1年秋に住吉ビクトリー(軟式)で野球を始めた。2年秋には武蔵府中リトル(硬式)に加入し、4、5年時に外野手として全国大会優勝を経験した。6年時に軟式に戻り、西武ライオンズジュニアに選出され、NPBジュニアトーナメントで準優勝した。

 桐朋中入学後は練馬北シニアに在籍したが、諸般の事情により、約3カ月で退部。1年生の夏休みから練習参加の取り決めがあった、桐朋中の軟式野球部に入部した。「三番・遊撃手」としてブロック予選を勝ち上がり、都大会に出場。森井の実力は突出していた。学内にある専用球場は中学、高校で共用。桐朋高・田中隆文監督は高校進学を前に森井と話した。

「当時からNPBよりも、MLBに強い関心を持っていたんです。『ならば、強豪校を目指したほうがいいんじゃないか。高いレベルでもまれながら、上のステージを目指しては?』と持ち掛けたんですが『この仲間と、ここでやりたい』と、森井の意志は固かったんです」

 森井は言う。

「西東京の強い学校へ行きたいという思いもありましたが、単純にどこからも声はかかっていませんので(苦笑)。プロに行くための最善の選択肢ということで、環境が良い桐朋高で、能力を伸ばしていきたいと思いました」

 野球を始めたころからメジャー・リーガーへの夢を描いていたが、具体的な目標となったのは中学2年時だという。「当時、コロナ禍での休校期間。このままではいけないという危機感が芽生えたんです」。ヨガの資格を持つ母・純子さんと本格的なトレーニングを始めた。

「野球はアメフト、ラグビーのようなコンタクト競技ではありません。ウエート・トレーニングで強化するのではなく、ヨガで体全体の柔軟性、しなやかさを求め、パフォーマンス力を高めよう、と。野球の動きに合わせたメニューを組み、週3回、約1時間程度、付き合ってもらいました。今もやらないと気持ち悪いので、継続して母から教わっています」

 父・志郎さんは関学大時代にアメリカンフットボール部に在籍。182センチ85キロ。アスリートの両親からのDNAを受け継ぎ、森井は野球選手としてステップアップしていった。「筋肉がつきやすい体質のようです」。現在もウエート・トレーニングは好まず、自重トレーニングでの強化を怠らない。

高校で描いた成長曲線


高校通算26本塁打。好きな左打者は福留孝介[元中日ほか]で「打率を残した上で、本塁打を打てるバッターになりたい」と、鋭いスイングを見せる[写真=田中慎一郎]


 1年夏の西東京大会初戦(2回戦、対聖徳学園高)では第2打席で右越え本塁打と、鮮烈デビュー。2年夏の西東京大会4回戦では、今春のセンバツ8強の151キロ右腕・日當直喜(楽天3位)から右前打を放っている(チームは1対7で敗退)。

「打ったのは落ちる系のスライダーです。1ボール2ストライクに追い込まれてから、真っすぐをカット。変化球で勝負に来るかなと思ったところで、5球目をうまく打つことができました。この試合は投手として、先発をさせていただきました。(6回6失点と)とらえられましたが、真っすぐで空振り、見逃し三振も取れました。課題が多く見つかった一方では、通用する部分も感じた試合でした」

 2年秋の東京大会1回戦で、東海大菅生高と再戦。チームは2対5と惜敗したが、スコアからも、同じ対戦校で、夏からの上積みを体感した。森井は「三番・三塁」で3打数2安打。計5打席で2四球を選んだ。2度の救援マウンドに上がり、8回裏の最終1イニングは3人で抑え「自分の立ち位置が分かった」と、投手としても成長を実感する一戦だった。

すでにNPBスカウトも注目


 部活動だけでなく、学生の本分である勉強も手を抜かない。田中監督によれば、有名私学に現役合格できるだけの基礎学力があるという。「周りは大学入試の準備をしている。皆、意識が高いんです。自分は授業をしっかり聞いて、テスト2週間前からはしっかり対策を練っているので大丈夫です」。桐朋高野球部のモットーである「文武一道」を徹している。

 田中監督によれば、すでにグラウンドにはNPBの複数球団の視察があった。森井が描く最高のシナリオはNPBで活躍した上で、MLBで活躍すること。仮にNPBドラフトで指名されなかった場合は、米国の大学への留学を考えている。主な高校生で歴代1位とされる140本塁打を放った花巻東高・佐々木麟太郎(3年)は10月、プロ志望届を提出せず、アメリカの大学でプレーする道を選択した。

「世代トップクラスの選手が表明され、こうした前例ができたのは、自分としても、行きやすい状況だと思います。最終目標はメジャー・リーガー。日本の大学を経由するよりも、アメリカの大学へ進んだほうが近道かな、と」

 目標数値も具体的だ。得意科目は英語。勉強する習慣が身についており、集中力を高めて机に向かう。

「NCAA(全米大学体育協会)のディビジョン1でプレーするには、TOEFLの4技能(リーディング、リスニング、スピーキング、ライティング)の総合評価で120点満点で『61点以上』が4年制大学出願の最低ライン。今ですか? 40点ぐらいはあってほしい。勉強すれば、クリアできる得点だと思います」

 過去に例のない進学校・桐朋高からプロ挑戦。「この冬場で、どれだけ伸びるかがカギです」。球場のネット裏で取材に応じた森井は、表情を引き締めた。

「チームとしては、春の都8強が目標。夏の目標はまだ、掲げていませんが、自分の中では(神宮球場でプレーできる)西東京大会8強、4強と勝ち上がっていきたいと思います。投手としては160キロ。高校通算40本塁打は打ちたい」。グラウンドのバックネットには「挑戦 甲子園」の横断幕が掲げられている。実戦では最速146キロだが、計測器では150キロをマークしたことがあるという。2024年は、東京の「秀才ドラフト候補」に注目だ。

文=岡本朋祐
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