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よみがえる1958年-69年のプロ野球

広島・古葉毅、不運もあって巨人・長嶋茂雄にあと一歩届かず首位打者を逃す/『よみがえる1958年-69年のプロ野球』1963年編

 

『よみがえる1958年-69年のプロ野球』第5弾、1963年編が11月29日に発売。その中の記事を時々掲載します。

『よみがえる1958年-69年のプロ野球』1963年編表紙


球宴明けから打ちまくる


 好評いただいている『よみがえるプロ野球シリーズ』。今回は1963年編から、広島古葉毅(竹識)の首位打者挑戦の話を紹介しよう。



 開幕から打撃3部門で好調を維持していた巨人長嶋茂雄。打率部門は競っていた同僚の王貞治を6月後半になって引き離し、独走態勢になっていた。

 一方、この記事のもう一方の主役となる広島の遊撃手・古葉毅は、球宴前時点で打率.291、長嶋の.352とは大きな差がついていた。

 古葉は長嶋と同じ1958年のプロ入りだが、学年では1つ下。打撃においてはいまだ打率3割はなかったが、61年に一時は長嶋と首位打者争いを演じたこともある。

 古葉にとって浮上のきっかけとなったのが初出場となったオールスターだ。2戦目に4打数2安打。3戦目では延長10回に代打で決勝打を放ち、MVPにもなっている。

 その後、ハイペースで打ちまくり、打率を3割に乗せた。

 長嶋の視界に古葉が入ったのは、長嶋が9月7日の死球で離脱したころだったかもしれない。打率.347で5試合を欠場し、9月14日阪神戦(後楽園)から復帰。対する古葉は長嶋の復帰前、13日時点で.331としていた。

 2人の差はさらに縮まり、19日の試合を終えた時点では長嶋の.341に対し、古葉は.335だった。

 翌20日はともに試合はなく練習日。長嶋は打率について尋ねられると、「この2、3試合のうちに一度は古葉に抜かれるけれどね。俺はあと15試合というところで抜き返すよ。それからスパートだ」と答えている。

 これは王に2本差まで迫られていた本塁打が頭にあってだろう。三冠王に向け、一番の難関が王との争いになる本塁打王。少しでも差を離しておきたいと思っていたはずだ。

 しかしいざ迫られると長嶋の野性の本能が燃える。

 9月24日からは直接対決3試合(後楽園)。24日の初戦はお互い無安打。続く27日のダブルヘッダー。長嶋はセーフティーバントも絡めながら8打数5安打、古葉は9打数3安打で長嶋.345、古葉.333となった。

 古葉は「首位打者を意識しないなんて言ってもウソになりますからね。もちろん狙っていますよ。意識十分です」ときっぱり言い切る。

最後まで出続けた長嶋


 10月5日から今度は広島での直接対決2連戦。まず5日、「二番・古葉」の球場アナウンスで大きな拍手が沸き起こった。すでに広島の最下位は間違いなし、ファンの期待は古葉のタイトルに集中していたと言っていい。

「巨人よ、勝負は負けてやる。その代わり古葉に打たせろ、長嶋は打つな。首位打者だけはいただきまっせ」とヤジにスタンドが沸いた。

 この試合、長嶋は.346、古葉は.339で臨み、長嶋が4打数1安打、古葉が4打数2安打で長嶋.345、古葉.341と毛差の勝負になっていく。

「ウチのほうが残り試合が多いので計算が立ちます。5、6試合は残っていると思うので勝負はそこ。今は1分くらいに食らいついていたい」と古葉。表情には余裕があった。

 翌6日、結果から書けば、長嶋3打数無安打。古葉は5打数2安打。

 古葉の3打席目のセンター前はセカンド前で大きくイレギュラーして抜けたものだった。エラーとなってもおかしくなかったが、スコアボードにはHのマークがつく。長嶋はそれを横目でチラリと見てうつむいた。

 8回、長嶋がレフトフライで.3429、古葉はこの時点で.3431と、わずか2毛ながら古葉が抜く。そのあと古葉が5打席目、平凡なセカンドゴロ。再び長嶋が5毛差でトップに立ち、試合が終わった。

 古葉は「抜いたのは知らなかった。でも、今は調子がいいのでなるべく差を縮めたいと思っています。いい当たりはみんなヒットになって幸運ですね。このあとはたたベストを尽くして首位打者を狙いたい」と笑顔だった。

 しかし直後、不運が古葉を襲う。

 10月12日の大洋戦(広島)5回二死走者三塁、島田源太郎シュートが古葉の左ほおに当たった。

 すぐ球場の救護室に運ばれ、そこから市内の病院に。左下あごの骨折で全治1カ月の診断だった。この時点で長嶋.345、古葉.339。そのあと15日には巨人優勝が決まったが、長嶋は残り2試合もフル出場を続け、打率.341で首位打者となった。

 入院中の古葉に長嶋から電報が届いたという。

「キミノキモチヨクワカル 1ニチモハヤイゴゼンカイヲイノル」

 残り2試合、もし打率が下回りそうになったら長嶋はどうしていたか。たぶん、それでも打席立っただろう。そして負けたとしても笑顔で、「古葉、おめでとう!」と言ったのではないだろうか。
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