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愛すべき助っ人たち

やってきたのは別人…「安いから契約だけでもしてしまえ」東京に輝いた“下町の太陽”ロペス【愛すべき助っ人たち】

 

ヘクターと思いきやアートだった


人違いで東京に入団したロペス


 事実は小説より奇なり。小説なら「そんな設定あり得ない」などと一蹴されるようなことは、実際には起きるものだ。

 1968年、ヤンキースのスター選手だったロペスと契約したつもりだった東京(現在のロッテ)だが、契約したロペスは、実は別人だった。前者はヘクター・ロペスで、後者はアート・ロペス。しかも、ヤンキースでプレーしたことはあったものの、リタイアして百貨店の売り場で働いているという。痛恨の凡ミスといっていい。ただ、そこからが現実世界の奇妙なところだ。「安いから契約だけでもしてしまおう。使えなかったら帰ってもらえばいい」と、このアート・ロペスという百貨店の売り子と東京は契約を交わした。小説なら編集者から却下されそうだが、こうした奇妙な縁が、思いがけない福を呼び込むことは少なくないものだ。

 本拠地は東京の下町、南千住の東京スタジアム。ナイターでは暗い町を明るく照らして“光の球場”の異名があったが、陽気なロペスは“下町の太陽”と呼ばれるようになる。同じく68年に入団した助っ人が長身の“あしながおじさん”ジョージ・アルトマン。こちらは正真正銘、メジャー歴戦の助っ人だった。メジャーのレジェンドが並ぶはずだったのだが、人違いで入団した一方のロペスは小柄で、2人を“大政、小政”と呼ぶ向きもあった。“大政、小政”については、長くなるので割愛する。若い読者は必要に応じて別途、調べてほしい。

 陽気なキャラクターだけではない。開幕戦から決勝の適時三塁打を放ったロペスは、球宴にも出場して、第1戦で史上初の初回先頭打者初球本塁打という痛快な活躍。シーズンでも1年目から23本塁打、チームがロッテとなって迎えた2年目には打率3割を突破して、3年目にはキャリアハイの打率.313という安定感でリーグ優勝に貢献する。ロッテでのラストイヤーも打率3割を超えたものの、オフにヤクルトへ移籍。通算596安打、301打点はロッテ歴代の助っ人では五指に入る。巧打と勝負強さを兼ね備えた助っ人だった。

 ヤクルトでは2年連続で2ケタ本塁打には到達したが、ロッテ時代ほどの輝きはなく、その2年で退団している。

写真=BBM
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