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【社会人野球】プロを含む台湾、韓国を撃破! 侍ジャパン社会人代表がアジア選手権を制すことができた理由

 

2大会ぶり20度目の優勝


日本はBFAアジア選手権で優勝。12月11日、台湾からの帰国後、記者会見に応じた。左からトヨタ自動車・嘉陽、NTT東日本・中村、同・向山[写真=BBM]


 侍ジャパン社会人代表は第30回BFAアジア野球選手権(台湾・台北)に出場し、12月10日の決勝で地元・台湾を1対0で下し、2大会ぶり20度目の優勝を決めた。10月22日に就任した川口朋保監督(明大−三菱自動車岡崎−三菱自動車岡崎元監督)は、国内直前合宿を開催しないという難しい状況の中でも、短期間でチームを束ねて、アジア王座へと導いた。

 チームは11日に帰国。アジアウィンターリーグ(11月24〜12月17日)のJABA選抜チームを指揮する川口監督のほか、コーチ2人は現地に残留(アジア選手権期間中はチームを離れる)。2022年のU-23W杯に続き主将を務めた中村迅(NTT東日本)、MVP、最多打点、ベストナイン(外野手)を受賞した向山基生(NTT東日本)、右腕エースとしてベストナインを受賞した嘉陽宗一郎(トヨタ自動車)が羽田空港内で優勝記者会見に応じた。

迷うことなく自分のプレーに集中


 日本は22年のU-23W杯の優勝メンバーと、今年10月のアジア競技大会で銅メダルを獲得した国際大会経験者の多くが名を連ねた。17年から同アジア選手権まで社会人代表を指揮した石井章夫前監督のスタイルを継承し、川口監督が新たなエッセンスを付け加えた。投手はストレートを軸に、持ち味を発揮。打者は好投手に打ち負けない鋭いスイングで、強い打球を打つ。選手たちは迷うことなく、自身のプレーだけに集中できたという。

 予選ラウンドはパキスタン、タイ、フィリピンに3連勝。スーパーラウンドは台湾に1対0で勝利し、韓国には5対2。そして、冒頭のように台湾との決勝をロースコアで制した。

 台湾とのスーパーラウンドで8回1失点、決勝でラスト1イニングを締めた嘉陽は言う。

「アジア競技大会は銅メダルに終わって、悔しさがあったので、リベンジできて良かったです。特に台湾戦は2試合とも1対0という厳しい試合だったんですが、ミスが出ても、明るい声が出ていた。一つのミスをチーム全員でカバーできたのが勝因です。投手陣としても台湾、韓国を相手に最少失点に抑えたのは手応えを感じています。今回、投手陣最年長で、川口監督からは一人でも多く、海外に通用する投手を育ててほしいと言われていたので、各投手が『自分らしさ』を存分に出して、国際試合を経験できたのは良かったです」

 主将・中村は課題を話した。

「日本の投手陣は素晴らしい。打線は台湾戦の2試合で2得点。打線の強化、フィジカルの強化が世界で戦うには必要です。海外の好投手を打つための打撃強化をしていきたい」

 向山も「打撃陣は5点、10点を取れる打線になれば、アジアでもずば抜けた存在になれる。自分自身ももう1回、見つめ直して、3年後のアジア競技大会(愛知・名古屋開催)で力を出し切れるようにしたい」と決意を語った。

 NTT東日本では不動の一番に座る向山だが、今大会は超攻撃的二番を託された。川口監督のさい配が見えてくる。

「進塁打のイメージも少なからずあったんですが、川口監督からはOPS(出塁率+長打率)が高いから起用しているとの説明があったんです。『あなたたちのスタイルを表現してくれ』と。監督からの言葉を『自分の打撃を好きにしろ』と受け止め、難しいことを考えずにプレーすることができました」

 投手目線で、嘉陽は語る。

「石井監督が築き上げてきた日本代表を取り入れつつ、川口監督の色を加えて、選手ファーストで、やりたいようにやらせてくれました。川口監督の声を聞きながら、良い野球をやらせてもらえました」

「オール社会人」で頂点に上り詰めた意義


 アジアのライバルである台湾は台湾プロのトップ、マイナーリーグの選手が名を連ね、韓国はプロの若手有望、大学生でチームを編成。一方、日本は社会人選手24人で臨み、アマチュアがプロを撃破する構図となった。「オール社会人」で頂点に上り詰めた意義を語る。

「相手はプロ。こちらが社会人という中で、絶対に負けたくない思いが強かった。プロには行けていないんですけど『社会人はこれだけやれるんだ! というところを見せたい』と。チーム全員でその思いを結集できたので、金メダルを獲得することができました」(中村)

「台湾の選手は、日本の社会人野球のレベルの高さに驚いていたと聞きました。僕自身、うれしく思いました。僕たちはプロではないんですけど、誇りを持ってやっている仕事なので、『アジア選手権制覇』という形で表現できたので良かったです」(向山)

「僕自身はプロ、アマのカテゴリーは関係ないと思っています。台湾を2試合連続完封したように、社会人野球のレベルは上がっている。台湾、韓国は同世代の選手たちなので『相手がプロだから』というのは言い訳にしかならない、と自分では考えていました」(嘉陽)

 国際試合で必要なこと。すべての侍ジャパン世代に参考になる教えを、嘉陽は語った。

「短期決戦になるので、調子に左右されない。今までやってきたことを、その場で出すしかない。キャッチボールの調子が悪いと思っても、そのコンディションでやるしかない。置かれた状況を冷静に受け入れ、自分でコントロールしていくことが大事になる。若い選手は実力はあるので、気持ちの面で1個、成長してもらいたいです。自分もまだまだのところがある。社会人野球のレベルアップのため、皆で切磋琢磨していきたいと思います」

 社会人6年目の嘉陽は7月の都市対抗優勝に貢献し、MVPに当たる橋戸賞を受賞。23年の社会人野球年間表彰では、28歳で初のベストナインを受賞した。

「この1年は充実していましたし、自分の体を、自分の思いどおりに動かせた。2026年の名古屋開催のアジア競技大会に向けて頑張っていきたいです。来年以降も引き続き、同じ成績を残せるようにしていきたいと思います」

 あくまでもアジアチャンピオンは通過点。26年のアジア競技大会までが任期である川口監督は、さらなるチーム強化に着手していく。

文=岡本朋祐
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