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【高校野球】21世紀枠でセンバツ出場なるか 伝統校・水戸一が躍進した背景は?

 

52年ぶりの県大会4強


母校・水戸一高を指揮する木村監督は同校OB。学生野球の父・飛田穂洲氏の胸像の横で、引き締まった表情だ[写真=BBM]


 水戸一高野球部の新年始動は早い。

 1月2日、正月恒例である同校野球部OB会・水府倶楽部主催の第94回ぶた汁会(総会)が行われた。コロナ禍の中止を挟んで、4年ぶりの開催。午前9時からのOB対現役戦(水府倶楽部が3対2で勝利)に始まり、総会、懇親会を通じて約100人が出席した。

 2020年秋から母校を指揮する木村優介監督によると、前身の水戸中出身の飛田穂洲氏(1960年野球殿堂入り)が生前、ぶた汁を振る舞ったことから続く伝統行事だという。

「秘伝のレシピがあるんです。OB・OG、現役女子マネジャーが丹精を込めて調理。心と体が温まりますね。20代前半から80代までが出席し、現役部員を含めて、世代を超えて、交流を深める場となりました。学校、OB会(水府倶楽部)、後援会(三の丸倶楽部)、父母会と、今まで以上に協力態勢が整ってきている。野球部を中心に組織運営は円滑に進んでおり、機運が高まっているのは確かです」

 水戸一高は昨秋の茨城県大会で52年ぶりの4強進出。センバツ21世紀枠の県推薦校に選出され、12月8日には関東・東京地区の推薦校となった。全国9地区の推薦校から1月26日の選抜選考委員会で、2校が選出される。

 水戸一高は1878年創立と県内最古の歴史がある。全国有数の進学校で2023年度は東大15人、京大7人、医学部医学科49人などの合格実績を挙げている。野球部は1891年創部。過去に夏3回の甲子園出場実績がある(1929、30年は旧制・水戸中、水戸一高としては54年)。選ばれればセンバツ初出場、70年ぶりの全国舞台となる。木村監督はぶた汁会の出席者の前で、新年のあいさつをした。

「一高の野球を、誇りを持ってやっていきたいと思います」

「学生野球の父」のスタイル


水戸一高の主将・津田はメニューの合間に部員を集め、指示を送る。指導者の指示待ちでなく、自分たちで考えて動く[写真=BBM]


 水戸一高の野球とは何か。「学生野球の父」のスタイルが、根底にある。木村監督は言う。

「飛田先生から伝わる『一球入魂』の精神を大切にし、チームのテーマとしています。ウチの場合、場所、時間に制限がある中で1球、1日、1分、1秒にこだわる。私たちは、そこしかない。準備を突き詰めていけば、野球の勝負強さにつながる。今後の人生を見据えた場合にも、働き方改革が叫ばれている昨今、タイムマネジメントが大事になってきます」

 授業の平日の練習は約2時間。照明が微弱であり、冬場の16時30分の開始時間にはすでにボールが見えず、限られたスペースでのメニューになる。フィジカル強化を掲げるチームに昨年11月、水府倶楽部の全面協力により、部室内の一角にウエート器具が設置された。「帰宅時に電車を待っている10〜15分の間でも体を動かせる」(木村監督)。グラウンドはラグビー、サッカー、陸上競技、ハンドボールと共用で、全面が使用できる機会は月に1、2回。言うまでもなく、授業難度も高く、大学入試への準備を並行して進めている。数々のハンディも一切言い訳にせず、創意工夫と集中力で克服している。

一塁ベンチのホワイトボードには、飛田穂洲氏から伝わる「一球入魂」のスローガンが書かれている。時代に合わせて、解釈しながら、この合言葉をつないでいる[写真=BBM]


 生徒たちも「令和の一球入魂」を十分に理解する。津田誠宗主将(新3年)は言う。

「毎年『一球入魂』がスローガンですが、どう解釈するかは、代によって変わる。自分たち次第です。グラウンドでは言葉のとおり、1球に魂を込める。グラウンド外では、何事にも妥協しない。授業の合間の休み時間、通学時間、帰宅後は自分たちに委ねられた時間。野球以外の取り組みも一つひとつ丁寧にやる」

入試改革へ尽力


 水戸一高が躍進した背景には「入試改革」が一因としてある。

 新3年生13人、新2年生13人。女子部員2人を除けば、選手24人という少人数だが、野球部存続と強化へ、大きな一歩を記している。

 2022年4月入学の入試から実施された「特色選抜」(県では13年入試から導入)だ。進学校・水戸一高は導入に積極的ではなかったが、重い腰を上げ、硬式野球部のみを対象としたのである。募集定員の3パーセント(定員240人だった22、23年は7人、付属中学の80人入学してくる24年は定員が160人になったため4人)が入学できる。

 選抜方法は同校ホームページによると、学力検査の成績(500点)、調査書(80点)、面接(30点)、実技検査(90点=長座体前屈、立ち幅跳び、メディシンボール投げ)の結果を、総合的に判断して合格者を決定する。

 出願要件には「本校の教育を受けるに足る資質・能力を有する者。かつ野球において中学校の部活動または地域のクラブチームに所属して3年間積極的に取り組み、本校入学後も硬式野球部に所属し、学業との両立を図りながら活動する強い意志のある者」とある。また、各種大会における活動実績に満たした生徒が、出願が可能となっている。一般入試だけではジャッジできない、野球における有能な人材に門戸が開かれたのだ。昨今、部員不足が課題となっていた野球部にとっては人員確保へ、ありがたい受験システムとなった。

 入試改革へ尽力したのが、木村監督だった。

「ウチの学校には『三兎を追う』というモットーがあります。勉強、部活動、生徒会。今年3月に卒業する野球部の3年生は4人だったんですが、硬式野球部に限らず、団体スポーツが成り立たなくなってきているのが現実です。硬式野球部も存続できなくなる。学校側への呼びかけとして、プレゼンもさせていただきました。学校は飛田先生の功績と『野球部は校技』と理解をいただき(特色選抜を)『やりましょう!!』という、決定に至りました。感謝しています。存在するだけではなく、強化を含め、覚悟を持って指導している」

 あくまでも入学試験の一環であり、硬式野球部側から中学生にアプローチはできない。

「合格の保証はありませんので、本人の意志に託すしかありません。実際、倍率は2倍ぐらいある。一定レベルの学力と、入学後に勉強と野球を両立する覚悟がないといけない。目の前のことを、一生懸命する。一般入試の生徒を含めて、彼らの頑張りは大したもの。プレッシャーもあったと思いますが、重圧を乗り越え、敬意を示します。あきらめないで可能性にチャレンジする姿勢は、学校全体の活性化にもつながっていると信じています」

 津田主将は「誤解をしていただきたくない」と、前置きをした上で、実情をこう語る。

「野球推薦のイメージを持たれている方もいますが、そうではありません。特色選抜の入学者は皆、一般入試でも合格ラインに達するぐらいの点数を取っている。実技検査も、野球の実技とは関係ない。野球の実績があるから入学できるのではありません。どちらかと言えば、勉強のほうで努力してきたんです」

 学力検査は500点満点中、450点ほどは必要だという。つまり、全5教科で90点が求められる超難関を突破したエリートたち。昨秋4強の原動力となった141キロ右腕・小川永惺(新3年)ら野球と勉強を本気で取り組む模範生がチームの主力となり、飛躍を遂げた。

センバツ選出は「待つ身」


 運命の選抜選考委員会まで20日あまり。津田主将は、充実の表情で語る。

「甲子園を、目標として明確に見られる幸せな時間です。昨秋の準決勝では、常総学院に敗退し、全国レベルを肌で知りました。その差を、いかにして埋めていくか。センバツで勝つことを照準に、練習しています。『21世紀枠だから……』『進学校にしては……』と評価されるのは本意ではありません。自分たちのような環境でも戦えるところを見せたい」

 センバツ選出は「待つ身」であり、自分たちでコントロールはできない。だからこそ、1月26日の結果により、気持ちが左右されることもない。あくまでも、最終目標は「茨城の頂点に立ち、夏の甲子園出場」。水戸一高ナインは日々「一球入魂」を胸に秘め日々、部活動と学業を全力でこなしていく。

文=岡本朋祐
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