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【高校野球】センバツ選出は「当確」の立場にある星稜 積み上げた練習の成果を発揮することが復興の光に

 

野球部の活動は11日に再開


星稜高・山下監督は1月1日に発生した能登半島地震について語った。写真は昨年11月20日の明治神宮大会決勝後の取材対応[写真=田中慎一郎]


 第96回選抜高校野球大会の選考委員会が1月26日、大阪市内で行われる。星稜高(石川)は昨秋の北信越大会優勝校で、一般選考枠における北信越地区(星稜高が明治神宮大会で優勝したことより、明治神宮大会枠を含む計3枠)で、選出は「当確」の立場にある。

「運命の日」まで1週間を切り、昨年4月から母校・星稜高を率いる山下智将監督は1月1日に発生した能登半島地震について語った。

「正直、心の整理はできていません。毎日、ニュースは見たくないですが、現状を把握する意味でも、見るようにしています。能登のほうでは日常生活の食事、風呂、睡眠と当たり前のことができていない。私たちは、野球をしていていいのか……。元旦以降、私の心の中では、さまざまな感情が渦巻いています」

 1月1日、16時10分。山下監督は石川県能美郡川北町にある、夫人の実家で過ごしていた。経験したことのない揺れ。大津波警報を受け、山手へ避難した。家族を守り、学校関係者、野球部員の安否確認に追われた。野球部員の人的被害はなかったが、能登出身の部員は避難所で、不自由な生活が続いたという。

 山下監督の父・智茂さん(星稜高で春夏通じて25回の甲子園出場)は2022年3月、能登にある母校・門前高の野球指導アドバイザーに就任。地震発生時は金沢市内の自宅におり、幸いにも無事だった。山下氏は言う。

「家の中では物が散乱し、長男(山下監督)が片付けを手伝ってくれました。能登のほうは断水、停電。門前高校は体育館が避難所になっており、学校は休校。僕のふるさとも、ひどい状況になっている。例年、新年が明ければ『早く(指導に)来てくださいよ!』となるわけですが、今回は道もダメ……。門前高校野球部は『町おこし軍団』として活動しています。時期がくれば、何とか野球で、お年寄りを元気づけたいです」

 星稜高校野球部は当初、1月4日に新年最初の練習をスタートする予定だったが、学校敷地内の立ち入りが禁止。5日の職員会議も延期。5日は学校職員がジャージーで学校に集まり、敷地内の片付けと学内の安全確認に明け暮れた。三連休明けの9日に職員会議が行われ、10日にオンライン授業、11日から対面での授業がスタート。野球部の活動も11日に再開された。

スポーツが頑張らないといけない


 例年、冬場は学校敷地内に隣接する室内練習場での練習がメーンだが、今年は晴れていれば、学校から徒歩5分にある専用グラウンドが使える状態にあった。しかし、地震により、一部で地割れ。高台にあり、球場へ向かう坂道のアスファルトが亀裂や穴などの被害があった。金沢市、業者、学校の判断により、使用不可。再度、使えるメドは立っていない。

「三連休(1月6〜8日)のどこかで、復興支援に行こうかと考えたんですが……。父の実家は能登。今は誰も住んでいないですが、見慣れた風景が一変してしまった……。幼いころはお盆の夏祭り、魚釣りなど、たくさんの思い出があります。居ても立ってもいられず。でも、交通網が大混乱しており、そういう状況でもない。(学校、自宅のある)金沢は能登ほどの被害ではないとはいえ、やらないといけないことは山積している。生徒の学びの時間を確保することが先決。タイミングが来たら、行動へ移していきたいと考えています」

 1月11日。12月27日以来の練習で、野球部員は仲間と再会。「安心感。喜んでいるように見えました。彼らに会うまで何を言おうか考えていたんですが『とにかく、ウチができることを一生懸命やろう!!』と伝えました」。

 再開から4日後、部内に新型コロナウイルスの感染者が出ると、15、16日は練習を中止。学校全体が感染拡大となり17、18日は部活動が休止、オンライン授業となった。自宅で過ごした山下監督は、あらためて地震と向き合った。

「日本航空石川さんが山梨に拠点を移して頑張っている姿を、ニュースを通じて見ました。また、14日に京都で行われた全国都道府県対抗女子駅伝では石川の1区を務められた五島莉乃さんが区間賞の快走で、感動しました。2011年の東日本大震災では、3月末の日本代表とJリーグ選抜による復興チャリティーマッチでカズ選手がゴール。さまざまな過去の映像も見返した中で、私自身『スポーツが頑張らないといかんな!!』と実感したんです」

 1月26日、選抜選考委員会が控えている。

「野球部長(谷村誠一郎氏)とも相談したんですが、学校がOKであれば、取材対応をさせていただきたいと考えています。生徒たちが頑張ってきた『証し』として1月26日に、一つの結果が出る。石川県が頑張っているぞ!! というところを見せたいです。とにかく、一生懸命やる姿を見せるしかない。父が監督として率いていた時代から、ウチは我慢、我慢して、何とか乗り越えてきた歴史があります。『耐えて勝つ』という言葉が伝統として、先輩から後輩へとつながれていますが、今こそ、ウチのスタイルをやるしかない」

 山下監督は野球部長時代から、いつも生徒に寄り添ってきた熱血漢だ。誰よりも故郷・石川に愛着があり、母校・星稜高を愛している。グラウンドでは常に泥んこになって、全力プレーを貫くのが、星稜野球の神髄。何も変えることはない。積み上げた練習の成果を発揮することが、復興の光になると信じている。

文=岡本朋祐
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