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ドラフト当日はマウンド上で起床…「変わり者」の156キロ右腕が中日のキーマンに

 

階段を一気に駆け上がった1年目


昨年、一軍で36試合に登板した松山。今年はさらなる飛躍を誓う


 3月6、7日に欧州代表と対戦する侍ジャパンのメンバーが発表され、中日松山晋也が選ばれた。育成出身右腕の昨季の活躍を見れば、納得の選出と言えるだろう。

 身長188cmの長身から投げ下ろす最速156キロの直球、落差の鋭いフォークで三振の山を築く。アマチュア時代から日の目を浴びてきたわけではない。八戸学院野辺地西高で目立った活躍はなく、八戸学院大でリーグ戦デビューを飾ったのは3年秋。4年春も救援で4試合に登板したのみだったが、4年秋の活躍が転機となる。岩手大戦に救援登板した際、6回2/3を投げて11三振を奪うなど計13試合に登板。プロのスカウトの目に留まり、中日に育成1位で入団した。
 
 1年目から階段を一気に駆け上がった。ウエスタン・リーグで21試合に登板し、0勝1敗10セーブ、防御率3.26の結果を残し、6月5日に支配下登録。一軍デビューを飾った同月17日の日本ハム戦(バンテリン)で三者連続三振の快投を見せ、強烈なインパクトを与える。3点ビハインドの9回にマウンドに上がると、先頭打者の野村佑希をフォークで見逃し三振。石井一成は高めの151キロで空振り三振に。アルカンタラも低めのフォークで見逃し三振を奪った。

体の強さも大きな魅力


 剛腕という言葉がよく似合う。体の強さも大きな魅力だ。プロのシーズンを駆け抜けるのは初めての経験だったが、熱い夏場もパフォーマンスが落ちない。8月以降19試合連続無失点と抜群の安定感で、勝利の方程式の一翼を担った。36試合登板で1勝1敗17ホールド、防御率1.27。35回1/3を投げて50奪三振で、奪三振率「12.74」は30イニング以上投げた投手の中で最高の数値だった。活躍が侍ジャパン・井端弘和監督の目に留まり、人生初の日の丸を背負うことになった。

 昨オフはオリックス平野佳寿投手の自主トレに志願参加。向上心旺盛で、周囲に左右されない自分の軸を持っている。自ら「変わり者」と話す右腕は、ドラフト前夜の2022年10月19日に誰も想像できない過ごし方をしている。八戸学院大のグラウンドに向かってマウンドに布団を持ち込むと、防寒対策でベンチコートを着込んで寝床に。「最後はやることやって、野球の神様にお願いするしかないと思ったんです」。青森の夜空を眺めて祈りながら眠りについた。起床は朝5時半。「声がすると思ったら、サッカー部が朝練をしていました」。中日に育成ドラフトで指名され、「1年目が勝負です。人生を変えようと思って名古屋へ向かいました」と大きな覚悟を持ち、プロの世界に飛び込んだ。

通算273ホールドの育成出身左腕


巨人で通算642試合に登板した育成出身の山口


 育成入団からサクセスストーリーをつかんだリリーバーの代表例が、巨人の山口鉄也(現巨人二軍投手チーフコーチ)だ。育成枠で入団すると、プロ2年目の07年に支配下昇格。翌08年から日本記録となる9年連続60試合以上登板を果たし、最優秀中継ぎ投手を3度獲得した。球界で最も速く200ホールドを達成し、通算成績は642試合登板で52勝27敗29セーブ273ホールド、防御率2.34。18年限りで現役引退し、週刊ベースボールのインタビューで、こう語っている。

「1回ファームに落ちてしまうと忘れられてしまう。そこに新たな戦力が上がっていくわけで、その選手が良かったら自分が入るスキがなくなります。ずっとそういう危機感を持ってプレーしていて。ファームに落ちた理由はケガですけど、1回自分の居場所を手放してしまうと、なかなか取り返せない厳しい世界だなとあらためて感じました」

 技術は当然だが、一軍で結果を残したいという執念がなければ長期間活躍できない。松山はその資質を兼ね備えている。来季の目標は「防御率0点台、160キロ、50試合登板」。すべて達成すれば、チームの成績も上がる。球界を代表するセットアッパーへ。23歳右腕は無限の可能性を秘めている。

写真=BBM
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