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2024センバツ

【2024センバツ】22年8月に就任してセンバツ勝利 創志学園・門馬敬治が短期間で成果を収めた3つのキーワード

 

「甲子園基準」を求めて


創志学園高・門馬監督は別海高とのセンバツ1回戦で初戦突破へ導いた[写真=牛島寿人]


第96回選抜高校野球大会▼第3日
【1回戦(3月20日)】
創志学園(岡山)7-0別海(北海道)

 2021年春、母校・東海大相模高を率い、3度目のセンバツ制覇に導いて以来の甲子園である。創志学園高の指揮官として乗り込み、21世紀枠で出場した別海高との1回戦を7対0で制し、新天地初采配で初勝利を遂げた。

 創志学園高・門馬敬治監督は開口一番「格別にうれしいです」。そして「このユニフォームで初めての甲子園。いろいろな思いがあります」と、包み隠さず、心境を明かした。

 就任から約1年3カ月で結果を出したのだから、その手腕は確かである。2022年8月10日、縁もゆかりもない岡山で初指導。単身赴任での挑戦だった。昨年11月4日の中国大会準決勝で勝利して、センバツ出場を当確とさせた(中国地区の一般選考枠は2校)。

 生徒がすべて入れ替わるまで3年。前任者から交代し、新たな指導方針を浸透させるには、相当な時間と労力を要する。今大会に出場した3年生は、門馬監督就任前の22年4月入学。この秋の新チーム以降、すべて門馬監督が指導した生徒となるわけだから、一般的には考えられない「スピード」である。短期間で成果を収めた理由。3つのキーワードがある。

 まずは「甲子園基準」。

「人を気にせずに、やるべき基準を上げる。コンマ1秒にこだわる。試合では、泥んこになってほしい。例えば、けん制でもギリギリのリードを求めるならば、足でなく、頭から戻らないといけない。毎日の練習あるのみです。仮に結果が出たとしても、土台がしっかりしていなければ、すぐに崩れてしまう。私は当然のことですが、選手、コーチ、スタッフも基準を上げていく。その繰り返しです」

 寮生活にも厳しく、目を光らせた。門馬監督は合宿所の近くに住み、毎朝、朝食の配膳、片付け、練習後の夕食も一緒に取る。コミュニケーションの中で生徒の資質、そして、顔を見て、コンディションを確認するのである。

「人は変えられないが、自分は変えられる。野球だけしかできないではなく、野球もできる生徒を育てる」。試験前には勉強時間を十分に確保し「野球、寮・学校生活を通じた人間形成、人間教育」は前任校から不変の指導スタイルを貫いてきた。

「甲子園を目指していたら、そこで終わる。(日本一という)絵に描いた餅にならないよう夢、目標は文字に起こす。口に出さなければ現実にはならない」

貫くアグレッシブ・ベースボール


 次に地元への「愛着」である。門馬監督は岡山に伝手はない。裸一貫の再出発だった。

「岡山が好きになって、岡山の人間として戦う」。野球の歴史、近年の勢力図など多くの情報を集め学んだ。県内の指導者と交流し、中学生の現場にも積極的に足を運んだ。

「座しているだけでは、ダメです。自分から道を切り拓いていかないと。野球も、人も、実際に接して感じることができないと、先に進むことはできません。『創志学園で野球をやりたい』という生徒が粘り、踏ん張り、頑張ってくれる。この岡山の地で、根を生やしたいと思います。原のオヤジさん(東海大相模高の恩師である原貢元監督)から生前に『東海大相模の名前、肩書が外れたときに、初めて門馬敬治という人間の評価が決まる』と。創志学園の門馬敬治として戦う」

 最後にブレないポリシーだ。

東海大相模高で標榜してきた「アグレッシブ・ベースボール」を創志学園高でも貫く。

「攻撃は最大の防御なり。原のオヤジさんの言葉を、自分なりにアレンジしたスローガンです。声は相手になかなか伝わらいですが、言葉は相手に伝わる」

 この「アグレッシブ・ベースボール」こそが、冒頭の「甲子園基準」につながる。創志学園高の練習拠点・赤坂グラウンドでは日々、活気あるメニューが展開されている。ここは「練習」でなく「甲子園」。常に全国を意識して汗を流してきたから、慌てることはない。

「甲子園は特別な球場ではなく、当たり前の場所にしないと戦えない」。全部員に浸透。今大会も目指すは「日本一」だ。岡山勢の全国優勝は65年春の岡山東商高が唯一。夏の全国制覇はない。岡山の高校野球発展のため、結果を追い求めるのが「使命」と考える。

 門馬監督の恩師・原貢氏は65年夏、三池工(福岡)で全国制覇を遂げた翌66年に、東海大相模高へ戦いの場を移した。「一緒にはなれないし、追いつくこともできませんが、オヤジさんはすごいことをやったんだな、と思います」。就任4年目で甲子園へ導き、5年目で全国制覇。縁のない環境でも結果を出す男のロマンに、門馬監督も掻き立てられた。

 センバツ1回戦で対戦した別海高は、最後まで泥臭く、食い下がってきた。絶対にあきらめない。高校野球の原点を見た門馬監督は試合後「ありがたく、いろいろ勉強させていただきました」と頭を下げた。常に学び、挑み、レベルアップを目指す。名将率いる創志学園高は大会期間中も、貪欲に前を向いていく。

文=岡本朋祐
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