2024年の最終学年に照準

　初めて背番号1を着けた今春、横浜隼人高の右腕・沼井伶穏(3年)は確かな足跡を残した。平塚学園高との春季神奈川県大会2回戦(4月7日)で先発。横浜隼人高は3回裏に1点を先制も、6回裏に逆転を許し、1対2で初戦敗退となった。沼井は8回5安打2失点で、公式戦で初めて1試合を投げ切った。

　8奪三振はすべて空振り。指にかかった際の真っすぐのキレは抜群であり、カーブ、スライダー、スプリットと変化球の精度も高かった。107球と球数を抑え、1四球と安定感抜群のマウンド。しかし、試合後、エースとしてはまずは反省を口にしている。

「6回(の失点)は、メンタル的に決めにいくというところで力が入り、ボールが甘くなってしまいました。冬から練習してきたことを発揮できましたが、チームを勝たせることができなかった。この夏はチームを引っ張っていきたいです」

　ナイジェリア人の父、日本人の母を持つ。父は193センチのサッカー選手、母は剣道とアスリート一家に育った。一冬で1センチ伸びて186センチと成長過程にある。水谷哲也監督の方針により、故障を回避するため、段階を踏んで育成してきた。昨春の県大会から短いイニングで公式戦経験を積み、2024年の最終学年に照準を合わせてきた。

　冬に取り組んだのは、球速アップと制球アップ。双方を追求するのは難しいが、瞬発系のトレーニング、ブルペンでのフォーム固めを繰り返してきた。対外試合が解禁した今年3月の練習試合で、4キロアップの最速149キロを計測。水谷監督は「変化球も腕が振れるようになった。試合でもバタバタしない。どっしりしている」と、信頼の証しとして今春、エース番号を与えたのである。

　ネット裏で視察した中日・音重鎮チーフスカウトは、計測したスピードガンで「142キロ」だった上でこう話した。

「今日は先発なので、長いイニングを想定してか、スピードを抑えていたと思います。いつもはアベレージで140キロ台中盤の球質の良いボールを投げている、と。まだ4月ですので、夏に向けて出力も上がってくるでしょう。走る姿も良く、能力的に高い。楽しみな存在です」。将来性を高く評価している。

　沼井は「高卒で挑みたい。野球を始めたときからの夢。そのためには、チームを勝たせないといけない」と、プロ志望を口にする。

　伶穏(れおん)は「海外でもあり、世界で通用する名前」と気に入っており、好きな投手はパドレスのダルビッシュ有。「いろいろな球種でカウントが取れ、勝負もできる。真っすぐも強い。どんな状況でも試合をつくれる」。体重も一冬で5キロアップの82キロ。大きな可能性を秘めた沼井は、春の黒星を糧に、レベルアップを誓う。横浜隼人高を2009年夏以来、2回目の甲子園へと導く。

文=岡本朋祐