理想のスイングで滞空時間の長い放物線
桐光学園高の主将・森はバットでチームをけん引している[写真=BBM]
今春から完全移行された新基準の金属バット。センバツ甲子園では大会3本塁打(うち1本はランニング本塁打)と、1975年の金属バット採用以降、最少の数字だった。従来よりも「低反発」で「飛ばないバット」と言われているが、桐光学園高にはまったく無縁だった。
驚愕の強力打線である。横浜翠陵高との神奈川春季県大会初戦(2回戦)を14対0の5回
コールドで圧勝した。計12安打。森駿太(3年)と矢竹開(3年)には、豪快な右越え本塁打が飛び出した。新基準バットの対応にあたり「正しい形で、バットの芯に当たれば飛ぶ」という意見が多くを占めているが、2人はまさしく理想のスイング。滞空時間の長い放物線を描いた。
桐光学園高・森の本職は遊撃手だが、140キロ超の187センチの大型右腕としてマウンドにも上がる[写真=BBM]
就任40年のベテラン・野呂雅之監督によると、3月の対外試合解禁以降、強豪校との練習試合でも、チーム全体としてさく越えを連発しているという。現3年生は下級生時代からの経験者が多く「外野の頭を越す」のが合言葉。今春のセンバツは関東地区の補欠1位校で2001年以来の出場はならなかったが、「夏の甲子園全国制覇」を目標に切り替え、レベルアップを続けている。
「四番・捕手」の中村優太(3年)はただ一人、木製バットを使用し、右前打を放った。3月の対外試合解禁以降、当初は金属バットを使っていたが、打球がグリップエンド近くで詰まった際に、へこんでしまったという。試しに木製に持ち替えると、自校グラウンドで左越えの場外弾。この一打でバットの振り抜きの良さを体感し、以降は木製を持っている。フィジカルのある選手は、金属よりも木製のほうがしなり、対応しやすいという。
主将・森は4月4日の組み合わせ抽選会で「1試合1本塁打」と話し、公言どおりの活躍となった。高校通算37本塁打。すでに新基準のバットでは10本以上記録している。県大会初戦では先発を任され、3回を打者9人、パーフェクトに抑え込んだ。降板後は本職である遊撃で軽快な動きを見せた。
桐光学園高の四番・中村は木製バットを使用する[写真=BBM]
ネット裏で視察した
中日・
音重鎮チーフスカウトは「(バットの)ヘッドが効いているから、あれだけ飛ばせる。大したものです。一冬を越して、足も動くようになり、大型ショートとして、これからどこまで伸びていくか楽しみです」と目を細めた。
森は卒業後の「プロ志望」を明言する。しかも「ドラフト1位」が目標だ。野呂監督は「チームで最も練習します。一番早くグラウンドに出て、帰るのも最後。彼の言動が良い影響を与えているのは間違いない」と評価。森はゲーム中も声を切らさず、チームメートを鼓舞する姿が見られた。2024年の桐光学園高は一味違う。夏の甲子園出場は2年生エース・
松井裕樹(パドレス)を擁した2012年が最後。12年ぶりの神奈川代表をつかむ上でも、この春季県大会が試金石となる。
文=岡本朋祐