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【高校野球】昨夏のトラウマを振り払った横浜 慶應を下して夏の第1シードを獲得 

 

「宿敵」とのリベンジマッチ


横浜高は準々決勝を突破し夏の第1シードを獲得。宿敵・慶應義塾高を下している[写真=田中慎一郎]


【4月28日】
春季神奈川県大会準々決勝(保土ヶ谷)
横浜高9-4慶應義塾高

 昨夏の記憶は、トラウマのようになっている。

 2023年7月26日、慶應義塾高との神奈川大会決勝。横浜高は5対3とリードして、9回表の守りを迎えた。このイニングを抑えれば、「甲子園出場決定」である。

 無死一塁。慶応の一番・丸田湊斗(慶大1年)が二ゴロを放ち、「4-6-3」の併殺コースだった。二塁手からの送球を受けた遊撃手の主将・緒方漣(国学院大1年)が二塁ベースの側面を右足で蹴り、一塁へ送球したかのように見えた。ところが、二塁の触塁は認められず、オールセーフ。犠打で一死二、三塁とされ、左腕エース・杉山遙希(西武)は、渡邉千之亮(慶大1年)に左越えの逆転3ランを浴びた。横浜高は9回裏を無得点で、5対6で敗退し、3年連続の甲子園を逃した。

 あの夏以来……。横浜高は「宿敵」とのリベンジマッチの機会を得た。今春の4回戦は慶應義塾高と同じ試合会場。第1試合で慶應義塾高が勝利し、第2試合で横浜高が勝ち上がり、準々決勝で顔を合わせることが決まった。

 自校の試合を前に、慶應義塾高の4回戦(対川崎総合科学高)を偵察していた横浜高・村田浩明監督は、まさかの感情に襲われた。

「慶應の応援を聞いて、涙が出てきた。昨年の夏を思い出したんです。よみがえってきた」

 準々決勝まで中6日。村田監督は後輩でもある選手たちに、こう語りかけてきた。

「俺も高校時代に、乗り越えてきた。先輩たちも負けた相手に挑んで、越えてきた。横浜高校とは、そうした歴史と伝統がつながっている学校なんだ!!」

 村田監督は平日には横浜高OBの大橋秀行氏(大橋ボクシングジム会長)に会い、あらためて勝負の厳しさを学んだという。

「ボクシングの一つの負けは(選手生命にもかかわるため)重たいんです。ウチの野球部もそうなれば、重たい1敗になる」

先輩からの激励メッセージ


横浜高の主将・椎木は1回表に先制2ラン。チームに勇気を与える一発となった[写真=田中慎一郎]


 張り詰めてばかりいても仕方ない。試合を前日に控え、リラックスさせた。村田監督は「相手は関係なく、自分たちの野球をやっていこう!!」と選手たちに伝えた。だが、さすがに高校生には、無理があった。迎えた朝。

「シートノックから、地に足がつかない状況だった」。重苦しい雰囲気を振り払ったのが、主将のバット。1回表二死二塁から四番・椎木卿五(3年)が、慶應義塾高の先発・小宅雅己(2年)の変化球を左翼芝生席へ豪快に運んだ。先制2ランで勢いに乗った横浜高は中盤以降にも得点を重ね、9対4で勝利した。

 ゲーム後、村田監督は試合内容を問わなかった。この一戦は、結果がすべてだったからだ。

「打つ、打てない、抑えた、打たれたよりも、勝てたことがすべて。乗り越えたのは大きい」

 昨夏、先輩の杉山とバッテリーを組んだ正捕手・椎木については、労いの言葉を語った。

「一番、つらい思いをしている。彼にしか分からないこと。彼ならできると信じていました」

 9対2で迎えた9回裏の最後の守り。2点をかえされると、村田監督は三番手投手に1年生・織田翔希を起用した。2人の打者を三振に仕留め、慶應義塾高の反撃を振り切った。

「昨夏の決勝を見て『俺たちがやってやるぞ!!』と入学してきた1年生です。こうした公式戦の積み重ねが、自信になっていく。いずれは、彼らが横浜高校を背負っていく立場になる。1年生の頑張りが2、3年生の奮起となり、相乗効果となっている」

 ここが、終わりではない。「昨夏、秋(関東大会1回戦敗退でセンバツ出場を逃す)の悔しさがありますので、この春は優勝を狙っています」。5月3日の準決勝では関東大会出場をかけて、東海大相模高と対戦する。

 村田監督は最後に、しみじみと言った。

「9回は長かったですよ……」

 実は試合前日、緒方と杉山から「絶対に負けるな!!」と激励のメッセージが届いていたという。ただし、ここには裏話があった。

「私には、あえて送ってこなかったようです。2人は、私が気が張っていると、察知していますからね……(苦笑)」。教え子たちの無念を背負い、ラスト1イニングを三塁ベンチでじっと見守った。現役高校生だけではない。オール横浜高校で手にした1勝。1946年創部の野球部の歴史の1ページに深く刻まれた。

文=岡本朋祐
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