「えげつないボールを投げる」
右腕からキレのあるボールを投げ込む高橋宏
交流戦は普段対戦しないセパのチームが激突するだけに、野球ファンは新鮮に感じるだろう。対戦している選手たちも同じ気持ちだ。パ・リーグの選手たちの中で話題になっているのが、
中日・
高橋宏斗だという。
パ・リーグ球団の首脳陣は「昨年対戦したときにも思いましたけど、えげつない球を投げるなって。直球が速い上に質がいい。空振りを取れるボールです。スプリットも落差がすごい。制球が多少荒れているけど、まとまっていない分逆に打ちづらい。これからどう成長していくのか末恐ろしい。総合力で言えば、
佐々木朗希を超える素材だと思いますよ」とうなる。
高卒3年目の昨年に侍ジャパン最年少でメンバー入り。WBC決勝・アメリカ戦の快投が記憶に新しい。5回から救援登板し、マイク・トラウトとポール・ゴールドシュミットを連続三振に仕留めるなど1回無失点に抑え、世界一に貢献した。
グラウンド外の生活から見直し
最速158キロの直球にスプリット、カットボール、ナックルカーブを織り交ぜて三振の山を築く。先発ローテーションでシーズンを投げ抜く力も備えている。昨年は25試合登板で7勝11敗、防御率2.53。立ち上がりが不安定な登板が多く、51四球はリーグワーストと制球力に課題を残したが、良い投球の再現性を高めれば球界を代表する右腕になれる。今季は新たなエースとして期待され、開幕投手候補に名乗りを上げたが、春季キャンプでつまずいた。投球フォームで試行錯誤して状態が上がらない。開幕を二軍で迎えることになり、悔しさを抱えてグラウンド外の生活から見直した。週刊ベースボールの取材でこう語っていた。
「今年は開幕二軍のスタート。決まったときは、すごくショックでした。でも真っすぐも良くなかったですし、パフォーマンスが悪かったのは分かっていたので受け止めました。それから1カ月ほど、外食をやめました。今年からひとり暮らしをしているんですよね。ドジャースへ移籍された
山本由伸さんの食事を
オリックス時代に担当されていた栄養士の方のアドバイスを受けて、食べるものを決めているんです。自宅にカットしている食材が届くようになっています。煮たり、炒めたり。料理とは言わないかもしれないですけど体を考えた食事をしています」
交流戦で申し分ない働き
4月28日に一軍昇格すると、本来の直球のキレを取り戻していた。7試合登板で3勝0敗、防御率0.56。クオリティー・スタート(先発が6イニングを投げて自責点3以内)率は85.7パーセントと安定した投球を続けている。今季の交流戦前に意気込みを口にしていた。
「昨年の交流戦は防御率0.00でした。3試合投げて自責はゼロ。『自責は』というのは昨季6月21日の敵地での
楽天戦です。自分の悪送球が絡んで2失点しています。チームが勝ったからよかったのですが、決して後味はいいものではありませんでした。普段、対戦することのないバッターですから、初見で打たれるわけがない、というぐらい強気でマウンドに上がるようにしています。2年連続で交流戦防御率0.00の選手はまだいないということは、メディアの方からうかがいました。もちろんチームが勝つために、その気持ちで1試合1試合投げていった結果、またいい防御率で終えられたら最高です」
有言実行の投球を披露する。5月28日の
西武戦(バンテリン)は8回途中4安打無失点の快投で今季2勝目。6月4日の
ソフトバンク戦(バンテリン)は5回8安打1失点と交流戦で2年ぶりの自責点を喫したが、11日の
日本ハム戦(エスコン)は7回3安打無失点で3勝目を挙げた。2年連続交流戦防御率0.00は達成できなかったが、3試合登板で2勝0敗、0.47。申し分ない働きぶりだった。
高橋宏は未完成だ。制球は改善の余地があるし、緩急をうまく使えば球数を減らして完投も増えるだろう。裏を返せば、伸びしろだらけと言える。いまだ到達してない2ケタ勝利は通過点で、15勝以上勝てる能力を持っている。本格的に覚醒したとき、どんな投手に進化しているか楽しみだ。
写真=BBM