伝統の一戦で“ノーノー”
押しも押されもせぬ巨人のエースとなっている戸郷
6回7奪三振3失点。クオリティー・スタート(先発投手が6イニング以上を投げ、かつ自責点3以内)を達成した結果は、先発ローテーションの投手なら及第点をつけられるかもしれない。だが、巨人のエース・
戸郷翔征は違う。リーグ戦再開初戦となった21日の
ヤクルト戦(東京ドーム)で今季4敗目を喫した。悔しさしかないだろう。
粘り強い投球が持ち味だが、あっさり先制点を奪われるなど戸郷らしくない投球内容だった。初回に先頭打者の
西川遥輝に右中間二塁打を浴びると、一死三塁で
長岡秀樹に浮いたフォークを中前にはじき返され、わずか4球で先制点を奪われた。その後もフォーク、スライダーの制球が甘く修正できない。4回二死から
山田哲人にソロを被弾。6回は自身の暴投が絡んでスクイズを決められた。
球界を代表する投手の一人だ。高卒2年目から巨人の先発ローテーションに入り、2022年に最多奪三振(154)のタイトルを獲得し、同年、23年と2年連続12勝をマーク。21年から3年連続150イニング以上を投げ、心身ともにタフだ。球団創設90周年を迎えた今季は偉業を成し遂げた。5月24日の
阪神戦(甲子園)でノーヒットノーランを達成。巨人の投手が甲子園で大記録を達成したのは、プロ野球草創期に活躍した
沢村栄治以来88年ぶりの快挙だった。スコアは1対0。9回は先頭打者の
木浪聖也に四球を許して一死二塁と一打同点のピンチを迎えたが、
近本光司をフォークで一直に切り抜けると、
中野拓夢もフォークで空振り三振。マウンド上に戸郷を称える歓喜の輪が広がった。
5月24日の阪神戦ではノーヒットノーランを達成した戸郷
戸郷は週刊ベースボールのインタビューで以下のように振り返っている。
「調子はすごく良かったです。出力も出ていましたし、変化球の精度、真っすぐの質というのはすごく良かったので。ノーヒットノーランができた秘訣かなと思いますね。左打者に対する外のスライダーがすごく良かったので、そこはひとつのバロメーターだったかなと思います」
「なかなかできる記録じゃないので、それはすごくうれしかったですし、ああいう瞬間に立ち会える人もあまりいないと思うので。それを自分ができたというところもうれしいですね。僕の中でもプロ野球の世界に入ってからの目標でもありましたし、ひとつ階段を上ったというか、そんな感覚がありますね」
ケガなく安定した成績を残す
根尾昂(
中日)、
藤原恭大(
ロッテ)、
小園海斗(
広島)と同世代。聖心ウルスラ学園高で3年夏に宮崎県大会準々決勝で敗退後、U-18(18歳以下)アジア選手権に臨む高校日本代表の壮行試合で宮崎県選抜チームの一員として登板し、6回途中9奪三振2失点の快投を見せた。だが、アーム式に見える変則的な投球フォームにプロのスカウトの評価が分かれた。巨人にドラフト6位で指名を受けると、一気にエースの座へ駆け上がった。
スポーツ紙記者は「大きなケガもなく安定した成績を残し続けている。他球団を見渡しても、コンスタントに高水準の結果を残している投手はなかなかいない。実際にメジャーのスカウトも熱視線を送っています。過小評価されているというか、もっと日本でも評価されていい投手だと思います」と指摘する。
チームの窮地を救うのが、エースの仕事だ。6連敗で迎えた6月14日の
日本ハム戦(エスコンF)では今季最多の134球の熱投で2失点完投勝利。負の流れを止めた。
投手陣のリーダーの自覚
投手陣のリーダーとしての自覚は十分にある。
「やっぱり投手として一番輝いている沢村賞が欲しいですし、僕自身はまだ最多勝を獲ったことがないので、まずそこを獲ってからほかの意識というのはしたいなと思います。チームはこの2年Bクラスに沈んで悔しい思いをしています。チームを優勝、日本一にするためには投手陣の力も大事ですし、そこは僕も意識しますしね。一人ひとりが課題を分かっていると思いますし、先発なら先制点を与えないとか、ピッチャーから試合をつくっていけたらなと思います」
最後にリーグ優勝の歓喜を味わった20年。高卒2年目だった戸郷は1987年の
桑田真澄以来33年ぶりの開幕先発ローテーションに入り、9勝6敗、防御率2.76をマークしてリーグ連覇に貢献した。その後も順調にステップアップしているが、チームは優勝争いに絡めないシーズンが続き、心から喜べなかっただろう。ナインたちと
阿部慎之助監督を胴上げすることを目指し、右腕を振り続ける。
写真=BBM