我慢の戦いが続く阪神
阪神中継ぎ陣で欠かせない存在となっている石井
球団史上初のリーグ連覇を狙う阪神は我慢の戦いが続いている。3、4月は15勝9敗3分と好発進したが、5月は10勝13敗1分、6月も9勝12敗1分と貯金を減らしていく。
波に乗り切れない要因は主力打者の不振だ。チーム打率.221はリーグワースト。205得点もリーグ4位タイとふるわない。
佐藤輝明、
大山悠輔、
シェルドン・ノイジーがファーム降格を味わい、大山に代わって四番に抜擢された
近本光司も快音が聞かれなくなった。
中野拓夢も調子を落とし、昨年に「恐怖の八番」として活躍した
木浪聖也は左肩甲骨骨折で、6月16日に登録抹消された。
岡田彰布監督は自身の胸中を6月上旬に、週刊ベースボールのコラムで明かしている。
「1試合平均で3点という得点能力。数字だけでいけば、阪神より低いチームもあるが、どうしても昨年と比較してしまう。どこからでも得点できた昨シーズンやった。出来過ぎた面もあったけど、今年はどの選手もさらに数字を上げると考えていた。それがすべて逆の現象よ。それでも我慢したが、やはり動かさざる得ない状況にまできた。6月1日の
ロッテ戦で四番の大山(大山悠輔)を七番に。そして四番に近本(近本光司)。ほかも動かした。それでも実らなかった。ホンマ、底の状態が続く」
「ここまで守りの野球(投手力)で戦ってきた。援護がない中、とにかく投手陣が踏ん張ってきた。バランスの悪い戦いを続けながら、貯金を少しずつ増やしてきた。チーム状態がどん底でいながら、まだ貯金がある。よくもまあ、これで貯金があるもんだ。ホンマに不思議な感覚やけど、やはり勝率5割ラインは保っていかねばならない。いまは順位のことを考えてはいないし、1位から3位になっても(6月1日現在)、まったく気にしていない。それよりも、まずチームを正常な状態に戻すこと。ここに注力するだけのことよ」
阪神の生命線は投手陣
野手陣に誤算が相次ぐ中でも優勝争いに踏みとどまっているのは、地力がある証しだろう。阪神は投手陣が生命線だ。接戦が多い試合展開で救援陣の踏ん張りが勝負の明暗を分ける。抜群の安定感で支えている右腕がプロ4年目の
石井大智だ。今季17試合登板で1勝0敗11ホールド、防御率1.15とセットアッパーで不可欠な存在になっている。
秋田工高専出身。四国IL/高知からドラフト8位で指名された際はNPB初の高専卒選手という異色の経歴が話題になったが、入団後は実力で知名度を上げている。1年目の2021年から2年連続18試合登板すると、昨年は44試合登板で1勝1敗19ホールド、防御率1.35をマーク。リードした状況、同点、ビハインドの場面とあらゆる試合展開で起用され、黙々とアウトを重ねる。岡田監督は「使い勝手のいいピッチャー」と信頼を口にする。クライマックスシリーズ、日本シリーズでも計6試合登板で無失点の好投を見せ、38年ぶりの日本一に大きく貢献した。
一軍復帰後は安定した投球
6月21日のDeNA戦では今季初勝利を挙げた
今季はオープン戦終盤から状態が上がらず、3月30日の
巨人戦(東京ドーム)で1回2失点と痛打を浴びて登録抹消に。1カ月の調整期間を経て万全のコンディションを取り戻し、5月上旬に一軍復帰すると安定した投球を続けている。常時150キロを超える直球は手元でホップするような軌道で空振りを奪う。スライダー、伝家の宝刀のシンカー、フォークといずれの変化球も質が高く、ウイニングショットとして使える。6月21日のDeNA戦(甲子園)では9回のマウンドに上がると先頭の
牧秀悟に中前打を許したが、
宮崎敏郎を152キロの直球、
筒香嘉智をシンカー、
山本祐大をフォークで三者連続空振り三振。圧巻の投球でサヨナラ勝利を呼び込み、今季初勝利を挙げた。
試合後のお立ち台でも盛り上げた。「僕、トレーニングが大好きでチーム一のマッチョだと思っているんですけど、僕が『勝ち!』と言ったら、『マッスル!』と言ってもらってもいいですか」とファンに要望。石井が「明日も勝ち!」と叫ぶと、阪神ファンの「マッスル!」の大歓声が球場に響き渡った。
同期入団は1位の佐藤輝、2位の
伊藤将司、5位の
村上頌樹、6位の中野とタレントぞろいだが、石井も負けていない。頭脳明晰で筋肉隆々。リーグ連覇に向けて右腕を振り続ける。
写真=BBM