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【高校野球】土壇場で追いつきタイブレークで勝利の早実 9年ぶりの夏甲子園へ破った殻

 

9回に1点ビハインドを追いついて


早実は厳しい夏の初戦を突破した。右から4人が主将・宇野[写真=BBM]


【第106回全国高校野球選手権西東京大会】
7月16日 スリーボンドスタジアム八王子
▽3回戦 早実6-4明大八王子
(延長10回タイブレーク)

 先発で最後までグラウンドに立ち続けたのは4人。ベンチ登録20人中16人を起用する総力戦だった。第4シード校・早実は明大八王子高に追い詰められていた。相手はノーシード校とはいえ、昨夏は西東京大会準決勝進出の実績がある。早実・和泉実監督は「厳しい試合になることは覚悟していた」と明かした。

 早実は3回表に2点を先制したが、4回裏に失策が失点に絡んで、逆転を許す。5回裏も失策絡みで1点を追加され、劣勢の展開となった。7回表に1点をかえしたが、3対4で9回表を迎えた。負ければ、東東京に在籍していた1992年以来の初戦敗退の危機だった。

 しかし、土壇場から底力を発揮する。早実は1点ビハインドの9回表一死走者なしから國光翔(2年)が四球を選ぶと、代走・片山廉ノ介(3年)が二盗を決めた。一死二塁から三番・高崎亘弘(3年)の適時打で追いつくと、4対4のまま延長タイブレークへ。早実は10回表一死二、三塁から途中出場の2年生・三澤由和(父は現役時代に投手で元巨人三澤興一氏)の中前適時打で、2点を勝ち越した。その裏の明大八王子高の攻撃を左腕・中村心大(2年)が魂を込めたボールで、リードを守った。163球で10回完投した。

 守りではミスが連発した。高校通算62本塁打でプロ注目の右打者である主将・宇野真仁朗(3年)は、5打数無安打に終わった。宇野は今春から完全移行された新基準の金属バットではなく「飛距離が出る」と木製バットを使用していた。和泉実監督は勝因を語った。

「宇野が完全に抑えられた。力が入っていたんでしょうかねえ……。マークも厳しく、頭の整理ができない配球だったかもしれません。いつもならば、負けパターン。それでも勝てたのは、チームにとっても大きな収穫。宇野が打てない中でも、皆でやれた。いつも『全員野球』と言っていますが、スタンドの部員を含めて体現してくれました。大会中が一番、成長する。夏の大会は、こういうものを作っていかないと。次につながる」

最後まで投げ切った左腕


2年生左腕エース・中村は10回163球を投げ切り、最後はガッツポーズを見せた[写真=BBM]


 ベンチに控えるバックアップメンバーが最善の準備をし、各々が役割を果たした。チームとして粘れたのも、延長10回を一人で投げ切った中村の投球なくして語れない。

 昨秋は東京大会4強進出へと導いたサウスポーである。今春はコンディション不良により登板なく、調整を重ねて、この日の初戦(シード校のため、3回戦から登場)を迎えた。気迫の投球で、6回以降は失点を許さず、無死一、二塁の10回裏のタイブレークも無失点で締めた。「10回のことはあまり、覚えていません。ミットをめがけて投げるだけでした」。雨が降り注ぐ中でも、集中力が光った。

 中村は京都府出身。中学時代に在籍した京都ベアーズの先輩にあたる早大の3年生右腕・田和廉にあこがれ、早実の門をたたいた。今春から下級生ながら背番号「1」を着ける。

「歴代の先輩方、斎藤佑樹さん(元日本ハム)ら西東京を代表する投手が背負ってきた。自分がやらないといけない」

 2024年のドラフト1位候補である関大の左腕・金丸夢斗(4年・神港橘高)を理想の投手像に挙げる。「制球力が良く、伸びのあるストレート。トレーニングも参考にしています」。夏までの期間、投げられない中でも細部までレベルアップに努めてきた。故障明けのエースを最後まで投げさせた和泉監督は「他がいないですから……(苦笑)。ただ、負けたら次がないので……。ケガで久しぶりなので、疲労が心配ですが」と体調を気遣いながらも「日程的にこういう大会なので、チームとして皆でやる」と、一戦必勝を誓った。

早実・和泉監督は大会期間中こそ、選手が最も成長するタイミングと考える。「勝ち切れたのは大きい」と手応えを口に。写真は10回表、決勝適時打の2年生・三澤。途中出場選手の活躍も目立った[写真=BBM]


 難しい初戦を突破し、4回戦進出。16人が夏独特の雰囲気を経験できたのは大きい。伝統校を率いる主将・宇野は「(重苦しい展開は今後も)変わらないと思う。こういう状況は何回も来る。同じ場面になっても受け身にならず、自分のやるべきことをやる。最後の一瞬まで、今のことだけを集中してやっていこうと思います」と気を引き締める。「強い早実を復活させる!!」。日本ハム・清宮幸太郎が1年生だった2015年以来、9年ぶりの夏の甲子園出場へ、一つの殻を破ったのは間違いない。

文=岡本朋祐
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