左手首には緑色のリストバンド
筑波大の主将・永戸はサヨナラ打に笑顔を見せた[写真=大平明]
【9月28日】首都大学一部リーグ戦
筑波大4x-3帝京大(延長10回)
(筑波大1勝)
首都大学リーグ第4週1日目。2カードを終えて勝ち点がなく、1勝4敗と苦しんでいる筑波大。逆襲に向け、負けられない帝京大1回戦はタイブレークにもつれる接戦となったが、延長10回の末に4対3でサヨナラ勝ち。勝負を決めたのは「チームが苦しいなか、どうにかしたかったんです」という主将・永戸涼世(4年・八千代松陰高)だった。
昨秋はリーグ3位の打率.340でベストナイン(二塁手)を受賞。今年からは主将に就任したが、春は打撃不振。学生ラストシーズンとは勝負のシーズンと位置付けていた。
「これまでは逆方向へのバッティングを心がけてきましたが、それだけでは通用しなくなってきていると感じていたので、この夏は強く振ることを意識してきました」
学生スタッフにプレートの前から強い球を投げてもらい、そのボールを強く打ち返してきた。さらに、「今季はセカンドからサードに守備位置が変わり、負担が減ったので打撃に集中できています」と守備位置のコンバートも良い方向へ作用している。
その言葉のとおり、今季は第2週の日体大1回戦で、2本の二塁打を含む3安打を記録。ただ、前週の日体大3回戦では「最後のバッターになってしまい、チームを負けさせてしまったので『なんとか取り返したい』と思っていました」と悔しさを胸に秘めていた。
迎えた帝京大1回戦、永戸の左手首には緑色のリストバンドがあった。
「同級生の中村真也が故障で現役を引退して今は入院中なんですが、その中村は専大松戸高出身で緑色のリストバンドを一時、つけていたことがあったんです。そこで、山田航大(4年・東邦高)と一緒に『中村の分まで戦おう』と話し合って、お揃いの緑色のリストバンドをつけることにしたんです」
卒業後も社会人で現役
チームメートへの思いも背負った永戸は3回裏、勝ち越しにつながるライト前ヒット。6回裏には内野安打で出塁して1得点。そして、同点の延長10回裏は一死満塁で打席に立つと「みんながつないでくれたので、なんとか一本と考えていました。そして、2ボールになったところで『相手投手はストレートが武器なので真っすぐが来る』と思い、ストレートに絞っていました」と振り抜いた打球は、前進守備のショートのわずかに右上を鋭くライナーで抜けていった。
「しっかりと強く振ったことが結果につながりました。サヨナラヒットは初めて。チームがお膳立てしてくれて、学生スタッフやデータ班のおかげで白星を勝ち取ることができました」と目を潤ませた。
このサヨナラ打を含め、この試合は3安打で打率.348まで上昇。川村卓監督は「4年生の主力が少ないなか、永戸はキャプテンとして期するものがあり、気持ちが入っていました。それが気負いになってしまうこともありましたが、この大事な場面で打てたのは大きい。技術面でももっと打てると思います」と中心選手の一打に目を細めた。
4年生の永戸は卒業後も社会人で野球を続けることが決まっており、現在は卒論の準備をしているという。
「大学4年間で一番、良くなったのが守備。これまでは雑に処理していたところも前に出るのか、それとも引くのか。しっかりと見極められるようになったので、守備に関するテーマがおもしろそうだと思ったんです」
そこで、内野守備におけるポケット率とボールの持ち替えについてをテーマにした。
「ボールをポケットで捕球した時とグラブの先、土手で捕った時でどれだけ持ち替えやすさが変わってくるのか、実験をしてデータを収集しました」
大学での4年間を「人として、野球人として成長することばかりでした」と振り返っているが、その成長は学生スタッフやデータ班への感謝の言葉に表れている。今秋の目標は「勝ち点を2つ落としたので優勝は難しいと思いますが、今年は3位まで関東大会に出場することができるので、関東大会を目指して一戦一戦を戦うだけ。個人の成績よりも、チームの勝利に貢献できれば」と永戸。キャプテンとして、最後までチームを引っ張っていく。
文=大平明