独特の軌道を描くフォーク

高卒3年目の今季、中継ぎで好投を続ける山田
昨年は最下位に低迷した
西武だが、今年は一味違う。投手力を中心とした手堅い野球で白星を積み重ねている。5月20日の
楽天戦(盛岡)で1対0と手に汗握る投手戦を制し、貯金を今季最多タイの5に。首位・
日本ハムに0.5ゲーム差に接近した。
この試合では先発左腕の
菅井信也が5回3安打無失点の快投。7回からマウンドに上がったのが、高卒3年目の
山田陽翔だった。一死一塁で
マイケル・フランコをフォークで空振り三振に仕留めると、
宗山塁をツーシームで一ゴロに仕留めた。5ホールド目をマークし、開幕から13試合連続無失点で救援陣に不可欠な存在になっている。他球団のスコアラーは「カットボール、ツーシームの判別が難しく、バットの芯で捉えるのが難しい。あとはフォークですね。一度浮き上がってから大きな落差で急激に落ちる。あの軌道はなかなか見たことがない。魔球ですよ」と評価する。
甲子園通算11勝をマーク
高校野球ファンなら、誰もが知るスター選手だ。近江高校で2年夏からエースとして3季連続甲子園に出場。3年春は京都国際高がコロナ禍の出場辞退による代替出場で準優勝を飾った。山田は5試合594球の熱投。大阪桐蔭高との決勝で惜敗したが、この大会の主役だった。2年夏がベスト4、3年春は準優勝、3年夏もベスト4に進出。世代のトップランナーとして注目されたが、「僕たちはただ、運が良かっただけなのかなと思います。もちろん、実力のある選手がそろっていたというのもありますが、甲子園に出場する学校はみんなそう。3季連続に関しては野球の神様が味方になってくれたから、僕たちは勝ち上がれたというのもあると思います」と謙虚だった。
甲子園で計15試合戦い、歴代5位タイの11勝をマーク。この数字は1998年に春夏連覇を達成した横浜高・
松坂大輔(元西武ほか)、2010年に春夏連覇を果たした興南高・
島袋洋奨(元
ソフトバンク)に並ぶ記録だ。
高校通算30本塁打以上を放ち、打者としての評価も高かったが、プロでは投手で勝負することを決意。ドラフト5位に西武で入団したが、プロの世界は厳しかった。高卒1年目の23年にファーム公式戦の初マウンドとなった3月29日のイースタン・
ヤクルト戦で2/3イニングを5失点。制球が定まらず、打者と戦う以前の段階だった。三軍で登板した際も、思い描いた投球ができない。150キロ以上を投げる若手がゴロゴロいる中、身長175センチと体格に恵まれているわけではない右腕は自分の持ち味を見失っていた。
平良との自主トレが転機
一軍登板がないままプロ3年目を迎える。大きな転機になったのは、守護神・
平良海馬に弟子入りした自主トレだった。プライドをかなぐり捨て、投球フォームの大幅な改造に取り組む。左足を上げずにすり足で踏み込むスタイルになり、持ち味の変化球が生きるように。春季キャンプを一軍メンバーに抜擢されると、オープン戦で4試合登板して防御率2.25と結果を残して開幕一軍入りを果たした。
当初はビハインドの展開で登板が多かったが、好投を続けて『勝利の方程式』に組み込まれるように。5月17日の
オリックス戦(ベルーナ)は同点の延長10回に登板し、三者凡退の快投。プライベートでお世話になっている
滝澤夏央のサヨナラ打で、プロ初白星がついた。ウイニングボールを手にしたお立ち台で、「すごく重たいですね。本当に1試合1試合、緊張するんですけど一軍の舞台を楽しんで投げられています」と充実した表情を浮かべた。
無我夢中で投げているが、疲れは当然たまってくる。一軍のマウンドで投げ続けるのは初の経験で試練も待ち受けているだろう。だが、プロ入り後に輝きを取り戻した山田はその壁を乗り越える力を持っている。甲子園のスターから、西武のスターへ。サクセスストーリーは始まったばかりだ。
写真=BBM