ドラフトで4球団が競合

まだ勝ち星を得られていないが先発で好投を見せる金丸
プロ初白星はまだ挙げられていないが、他球団から「エースになる逸材」と高評価の左腕がいる。
中日にドラフト1位で入団した金丸夢斗だ。
昨秋のドラフトで中日、
巨人、
阪神、
DeNAの4球団が1位指名で競合。大学時代に発症した腰痛の影響で春季キャンプは二軍でスタートし、5月5日のDeNA戦(バンテリン)でプロ初登板初先発を果たした。6回5安打2失点で8三振を奪ったが、打線の援護に恵まれず初黒星を喫した。
威風堂々とした姿
野球評論家の
伊原春樹氏は、金丸のデビュー登板を週刊ベースボールのコラムで絶賛していた。
「新人らしからぬ威風堂々とした姿で初回のマウンドに上がった背番号21。初球、打席の
桑原将志に対して捕手の
木下拓哉は内角に構える。『ルーキーのプロ1球目にいきなりインサイドか』と少々驚きを覚えつつ、第1投目を見守ったが金丸は152キロ直球を桑原の懐にズドンとクロスファイアーを投げ込んだ。捕手のミットが動くことなく吸い込まれた剛球でストライクを奪った。桑原はカウント2-1から直球で遊ゴロに打ち取り、続く
牧秀悟は内角高め直球、内角低めスライダーで見逃し、ファウル。あっという間に追い込むと『三振を取りにいった』という本人の言葉どおりに、最後は真ん中高めへ威力のある150キロ直球で空振り三振を奪った」
「金丸の良さはやはり直球のコントロールがいいことだろう。この日は92球中、直球を47球投じたが、ストライク率は72.3%を誇った。テークバックが小さく、力感のない投球フォーム。そこから力強い直球が投じられるが、打者は手元で想像以上に球が伸びているように感じているはずだ。直球の奪空振り率も12.8%と高い数値を示している」
伊原氏は変化球の精度を課題に挙げたが、「これから経験を積んでいければ、勝てるピッチングができるようなってくるだろう。中日の左腕エースとなれる逸材の今後の成長をしっかり追い掛けていきたい」と期待を込めていた。
その言葉どおり、次戦以降の登板でも快投を続ける。5月16日の巨人戦(東京ドーム)は6回3安打7奪三振1失点。27日の
ヤクルト戦(神宮)も6回3安打7奪三振無失点に抑えた。3試合に登板して打線の援護は計2得点のみで、プロ初白星がお預けとなっているが、他球団のスコアラーは「球の質はもちろんいいのですが、マウンド上の落ち着いたたたずまいにエースの雰囲気を感じさせる。
今中慎二さんを思い出しました」と話す。
一時代を築いた左腕

山本昌とともに中日の先発陣をけん引した今中
中日のエース左腕として一時代を築いた今中氏は、150キロ近い直球と50キロ以上遅いカーブのコンビネーションで打者を翻弄した。93年に17勝7敗、防御率2.20、247奪三振で最多勝、最多奪三振などに輝き、審査項目をすべて満たして沢村賞を受賞。14完投、249イニングはいずれもリーグトップだった。翌94年もリーグトップの14完投、95年は15完投、96年は11完投とマウンドに上がれば最後まで投げ抜いた。登板過多の影響で20代後半は左肩痛に悩まされ、30歳の若さで現役引退。通算91勝は少なく感じるが、全盛期の輝きは衝撃だった。
今中氏は通算219勝左腕の山本昌氏と共に投手陣を牽引したが、金丸は同学年に
高橋宏斗という絶対的エースがいる。チームメートとして共にプレーすることで得られるものは多く、左右のダブルエースになることをファンは願っている。
中日の先発陣は
松葉貴大、
大野雄大、
涌井秀章とベテランの奮闘が目立つ一方で、20代の投手たちが伸び悩んでいる。
ソフトバンクを退団し、育成契約で加入した25歳左腕の
三浦瑞樹が支配下昇格し、4試合の先発登板で2勝を挙げているが、若手先発投手の台頭が乏しい。
下位に低迷する時期が長く続いている中、若い力の奮起は不可欠だ。金丸はコンディションを考慮して中10日以上の登板間隔を空けていたが、今後は先発ローテーションに組み込まれてどのような投球を見せてくれるか楽しみだ。
写真=BBM