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西川愛也が8年目で台頭したのは想定内 「野手は時間がかかる」西武・広池浩司球団本部長が語る育成

 

 開幕前の前評判は決して高くなかった西武が、5月までに約50試合を消化して勝率5割以上でAクラスにつけている(※今季の成績は5月31日時点)。投手陣は今井達也隅田知一郎の両先発が貯金を重ねる一方、打線をけん引するのが一番・西川愛也だ。内野手の滝澤夏央らも台頭してきたが、育成サイクルはうまく回り始めたのか。広池浩司球団本部長に聞いた。

25、6歳で出てくればいい


高卒8年目の今季、トップバッターに定着した西川


――近年は「育成のライオンズ」と掲げる一方、野手がなかなか台頭しない状況が去年まで続いていました。どのように見ていましたか。

広池 野手は今、時間がかかると思います。ご存じのとおり、ピッチャーのレベルが非常に上がっているので。平均球速が以前と何キロ違うんだという次元なので、アマチュアから獲得して即戦力というのはほとんどいない状況だと思います。

 その中で去年まで、非常に苦しい思いをしながら頑張った西川が今年、少し芽が出てきました。3、4年で出てこないから失敗とするのではなく、もう1、2年長なければいけないのかなと、野手については考えるようになっています。一軍の先発や勝ちパターンで出てくるピッチャーの質があまりにも上がり過ぎているので、なかなか簡単には活躍できない時代になっているなと。そんな中で逆に、新人の渡部聖弥が今のところフィットしているのはすごいことだなと思っています。

――西川選手は今年8年目、25歳です。野手は25歳くらいで出てくればいい、という目線も必要になっていますか。

広池 大学卒で入るのか、高校卒で入るのかにもよりますけれども、25、6歳で出てくればいいという目安はあります。逆に言えば、そこまでには出てきてほしい。人によって成長曲線があるので一概には言えないので、もしかしたらもう1年見なければいけない選手もいますが。

――球界全体で投手力が上がっているなか、球団としては打者の伸び率を見て待つのか、もしくは見切るという判断がより求められてきているのですか。

広池 最終的に一軍の戦力になるのは、時間がかかる傾向が特に野手はあると思います。でも最初の1、2、3年くらいで、成長曲線がなんとなく描けるのは事実としてあります。やっぱり出てくる選手は、早い段階から可能性を見せるので。そこはしっかりと判断基準としています。そこがずっと見えないと、8年待ったところでというのはあると思います。

――西川選手に関してはよく待ったというか、使い続けた?

広池 彼の場合は大胸筋を断裂した状態で入団して、そもそも戦える体にするのに時間を要しています。それを織り込んだ上で獲得しています。8年と言いますけど、最初の3年くらいは体をしっかりつくることから始まっているので、そんなに長いとは思っていません。実際、体が強くなってダイビングキャッチをしても大丈夫、しっかり投げても大丈夫となったのも、そんなに昔の話ではないですから。そこがしっかりしてからゲームに定期的に出ているという意味では、これくらいの時間がかかったのは想定内と思います。

守りの野球を体現


――球団の育成システム自体は、いい方向に回っていますか。

広池 そもそも育成はすごく難しいものです。こう言ったらあれですけど、素材が非常に大事。才能の集まりのプロ野球、日本で最高峰ですよね。やっぱり一番大事なのは、どういう選手を獲るかだと思っています。その上でどう育成するか、なので。活躍する選手が出てきてないことをすべて育成のせいにするのは違うと思います。であれば、編成の部分をしっかり考えないといけない。いい選手を獲得して、そこにいい育成がかけられたときに、初めて一軍で通用する選手になるので、その両輪を回していかないといけない。育成自体としては、やっていることは間違いではないと思っています。

――編成に関してはどうですか。

広池 これからです。

――今季ここまでのチームの戦いぶりをどう評価していますか。

広池 まずは監督の西口(西口文也)さんが掲げている、守りから入ってしぶとく1点をもぎとって、僅差の試合をものにするという野球がしっかりとできていると、今のところは思います。その証拠として、守備の指標はどこを引っ張ってきてもかなり上位や、12球団ナンバーワンという数字が出てきています。

――例えばチームの失策、併殺ともにリーグで一番いい数字です。

広池 西口監督が掲げる守りの野球が体現できている結果だと思っています。でも、今のところですよ。まだ5月なので。それなりのスタートが切れたというところだと思います。

――昨季序盤は接戦で負けることが多かったものの、今季は3点差以内の勝敗が16勝16敗。勝負強さを感じる部分もありますか。

広池 一つあるとしたら、リリーフ陣が平良(平良海馬)から逆算してトレイ・ウィンゲンターや甲斐野(甲斐野央)、エマニュエル・ラミレスがいて、山田(山田陽翔)も出てきました。その辺が今のところ機能しているのはあります。あとは新戦力の三、四番。渡部聖弥と(タイラー・ネビンが勝負強さを見せてくれている。一番で西川が出塁してくれている。先発ピッチャーはもともと去年から頑張っている主力級がいますし。その辺が接戦を勝ち切れる要因に、今のところなっているかなと思います。

ギリギリのところで競り合うプロ野球


――振り返ると2018、19年の連覇からまだ10年も経っていないのに、去年の大負けがありました。連覇の後から悪い方向に行ったのか、どういうことがあったと振り返っていますか。

広池 正直、連覇のときも、「ファームでこの次世代の野手って誰だろう?」という話になっていました。ただ、あのときは本当にピッチャーが足りない状況になり、どう考えても投手中心のドラフトにならざるを得ないというところでした。そこはちょっと心配な部分ではありましたけど。うまく野手のサイクルが間に合わなかった部分はありますね。

――連覇の頃、チーム防御率はリーグ最低の一方、“山賊打線”が牽引していました。それが今は逆に。近年のプロ野球は変化が激しいですね。

広池 各チームの実力がすごく離れているリーグであれば、こんなことはないでしょうけど。プロ野球は本当にギリギリのところで競り合っているので、ちょっとしたひずみで1位から6位まであるのは当然だと思います。これからも気を引き締めて、編成も育成もしていかないといけないと思っています。

――球団として「野球界のフロントランナー」というテーマがある中で、こんなこともやってみたいというものはありますか。

広池 ありますが、勝ってから言わせてください。去年91敗したチームの責任者がああだこうだいうのは、去年の思いからすると……。まずは勝つこと。ライオンズファンの皆さまに笑顔になってもらうことを今、全力で取り組んでいます。

取材・文=中島大輔 写真=BBM
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