交流戦で優秀選手賞

好球必打を貫き、セ・リーグ打率争いで上位を走る岡林
実績を考えれば意外に感じる。
中日・
岡林勇希が「マイナビオールスターゲーム2025」の外野手部門ファン投票で選出された。2022年に最多安打のタイトルを受賞し、同年から3年連続ゴールデン・グラブ賞を受賞したが、球宴の出場はプロ6年目で初だ。今季は打率.298、2本塁打、18打点、14盗塁をマーク。他球団のスコアラーは「もっと評価されてもいい選手だなと感じます。直球に強く、変化球のさばきもうまい。今年は首位打者争いにも絡んでくるのでは」と分析する。
初球から積極的に仕掛ける好打者だ。2ストライクに追い込まれても粘り強い。23年の39四球が自己最多だが、今年は75試合終了時点で28四球を選んでいる。交流戦は打率.378で12球団トップの28安打を記録。得点圏打率.500も12球団トップタイだった。猛打賞4回、マルチ安打10回と広角に安打を量産し、交流戦の優秀選手賞に輝いた。
6月は月間打率.352、2本塁打、11打点の好成績を残し、「6月1日の
巨人戦(バンテリン)の初回にホームランを打ちました(通算4号で2年ぶりの本塁打)。内角の真っすぐをうまく打てたと思います。先制されていたので追いつけてよかったです。最近、逆方向を意識する中でバットとボールが『滑る』ような感覚がありました。しっかり『噛む』ようにしたかった。引っ張る打球が増えてきているのはいいこと。リードする右手の使い方を変えたことが好結果に結び付いているかもしれません」と6月中旬に週刊ベースボールの取材に語っていた。
試練を味わった昨年
プロ3年目の22年に外野の定位置をつかみ、順調にステップアップしてきたが、昨年は試練を味わった。2月の春季キャンプ中に右肩を負傷して出遅れ、開幕二軍スタートに。4月中旬に一軍昇格したが打撃の状態が上がってこない。直球に強いことが岡林のストロングポイントだが、「テークバックを引かずにつくるとか、四球を取るために長くボールを見るとかしていたら、真っすぐを打てなくなってしまった」と打撃のスタイルを見失った。
「もう球場に行きたくないくらい。胃に穴が開くかと思った。苦しかった。最下位という成績を考えても自分が悪いなという自覚はあります。チームの得点力を落としましたから」
7月以降に上昇気流に乗ったが、123試合出場で打率.256と規定打席に到達したシーズンでワーストの数字に。自身初となる守備率10割で3年連続ゴールデン・グラブ賞を受賞したが、悔しさのほうが大きかっただろう。
ビシエド以来のタイトルへ
今年に期する思いは強い。
「周りを見渡しても、直球を打っている人は打率が高い。細川(
細川成也)さんも福永(
福永裕基)さんも直球を打って、変化球も打っている。そこはデータの人とも話しながらやっています。まずは直球をいかに打つか。オフもそこに重点を置きます。そして来季はケガなく、もう一度143試合フルイニングで出られるように頑張ります」
まさに有言実行だ。直球を力強く弾き返す打撃スタイルを取り戻したことで、コンスタントに安打を重ねている。
中日で最後に首位打者を獲得した選手は、18年のダヤン・ビシエド。打率.348をマークした。日本人選手は06年の
福留孝介までさかのぼる。打率.351で自身2度目のタイトルを獲得し、2年ぶりのリーグ優勝に大きく貢献した。その後メジャーで活躍し、
阪神、中日で45歳までプレーした強打者は「残した数字と言うよりもチームが優勝してMVPを獲れましたから。翌年は日本一になりましたけど、その場にいなかった。あれは悔しかった(渡米して右ヒジ手術)。でもその悔しさがあったからこそ、これだけ長くできたのかなと思います」と週刊ベースボールのインタビューで振り返っている。
岡林も打撃タイトルを獲得すれば、野球人生が大きく変わるだろう。球界を代表するリードオフマンへ。23歳の若武者は無限の可能性を秘めている。
写真=BBM