センターでスタメン32試合
広島はセンターの定位置争いが熱い。実績十分の
秋山翔吾を筆頭に
野間峻祥、
大盛穂が存在をアピールする中、32試合と最も多くセンターでスタメン出場しているのがプロ8年目の中村奨成だ。
不退転の決意で臨んだ今年は開幕を二軍で迎えたが、4月2日に一軍昇格。5月7日の
ヤクルト戦(神宮)から5試合連続マルチ安打を放ち、
新井貴浩監督が「奨成、キテルね」と目を細めていた。13日の
巨人戦(マツダ広島)では1点リードの2回に
戸郷翔征のフォークを左中間に運んだ。2021年7月7日の
DeNA戦(マツダ広島)以来1406日ぶりのアーチに、「ああいう歓声とか聞いて、久しぶりの一発がマツダで打てたのはすごく良かった」と喜びを噛み締めていた。
5月下旬まで打率3割台をキープ。6月は月間打率.185と調子を落としたが、7月に入ると効果的な一発が目立つ。2日のヤクルト戦(マツダ広島)で、1点差を追いかける3回に
奥川恭伸のスライダーを左翼席に運ぶ逆転の3号2ラン。この一撃が決勝打になった。左投手が登板した際にスタメン起用が多く、右投手は5月15日の巨人戦(マツダ広島)以来の先発だったがきっちり結果を出した。6日の巨人戦(東京ドーム)でも、1点を先制された直後の6回に
赤星優志の内角に食い込んでくるシュートをライナーで左翼席に運ぶ技ありの4号同点ソロ。5回まで球団歴代ワースト2位に並ぶ40イニング無得点と重苦しい雰囲気が漂っていたが、試合の流れを変える一撃で勝利に貢献した。
ラストチャンスの1年
「時の人」になったのが8年前。広陵高で3年夏の甲子園に出場すると、準決勝までの4試合で3試合連続本塁打を放つなど6本塁打をマークし、1大会で個人最多本塁打の記録を塗り替えた。ドラフト1位で広島に入団すると、地元出身のスター候補として期待されたが、伸び悩んだ。23年オフに背番号が22から96に変更となり、昨年は30試合出場で打率.145、0本塁打、1打点。鈴木清明球団本部長から「お前のポテンシャルにもう1年、賭けてみる」とラストチャンスを通告された。
入団当時は「強打の捕手」として将来を嘱望されたが、出場機会を増やすために21年から外野にも挑戦。当時ファームで指導していた
赤松真人一軍外野守備・走塁コーチは、「ずいぶん上手になりました。もともと肩、足、センスがある選手ですが、実は、不器用なところもありました。MAXの力で、走る、投げることはできますが、力をコントロールすることが苦手でした。フェンスとの距離を考えながらボールを処理する。ゴロを追いながらランナーを見る。こういうことが課題でした。フェンス、ランナー、さらには次の動き、すべてを頭に入れてプレーすることが大事です。そのあたりの意識も変わりました。一軍でやったことで、自分が何をしなきゃいけないか感じたのだと思います」と週刊ベースボールの取材で成長ぶりを評価していた。
守備でもチームに貢献
地道な努力が実を結ぶ。昨年から外野手登録となり、守備でもチームに貢献している。7月5日の巨人戦(東京ドーム)では初回二死三塁のピンチで、
増田陸のセンター前に落ちようかという打球を猛チャージしてスライディングキャッチ。相手の先制点を阻止した。
広島は昨年の夏場まで優勝争いを繰り広げたが、9月に5勝20敗と歴史的な失速でBクラスに転落。得点力不足がネックになったが、今年は違う。サンドロ・ファビアン、エレフリス・モンテロの両助っ人が奮闘し、打線の破壊力が上がっている。首位を独走する
阪神に本拠地・マツダ広島で同一カード3連敗を喫して9.5ゲーム差に突き放されたが、このまま引き下がるわけにはいかない。一、二番で起用される機会が多い中村奨がチャンスメーカーとして覚醒できるか。試合に出場できる喜びを糧に、ダイヤモンドを疾走する。
写真=BBM