替えが利かない右腕

リリーフとしてチームに貢献している山岡
ソフトバンク、
日本ハムと優勝争いを繰り広げる
オリックス。カギを握るのは救援陣だ。春先は不安定だったが、
中日から金銭トレードで獲得した
岩嵜翔がセットアッパーで安定した投球を見せ、
ルイス・ぺルドモ、
アンドレス・マチャドと共に勝利の方程式を確立している。この右腕も替えが利かない。試合の勝敗の分岐点で登板する
山岡泰輔だ。
球界に激震が走ったのが2月21日。山岡が海外のオンラインカジノを利用してコンプライアンス違反の疑いがあるとして、球団が活動自粛を命じたことを発表した。山岡は猛省して3月13日から活動再開し、シーズン開幕後は二軍で調整を続けた。5月5日に一軍昇格すると、救援でチームの窮地を幾度も救っている。6月5日の
広島戦(京セラドーム)では、1点リードの7回一死二、三塁と一打が逆転のピンチでマウンドに上がり、四番・
末包昇大、五番・
坂倉将吾を縦のスライダーで2者連続空振り三振。チームに白星をもたらした。7月1日の
西武戦(那覇)でも1点リードの7回一死満塁のピンチで登板し、
牧野翔矢を空振り三振、
源田壮亮を中飛で無失点に切り抜けた。
山岡は責任感の強い男だ。昨年はシーズン後の秋季キャンプに参加。「マモさん(
岸田護監督)が監督になった時点で分かったことです。年齢的にも若返るというか。僕ら選手も次の世代というか、そこが引っ張っていかないといけないって。だからと言って、何かを変えるわけじゃないですけどね」と自覚を口にしていた。投手リーダーを託された2019年から自身の役割は理解している。意識したのは声掛けだ。週刊ベースボールの取材で、「QSをクリアして『ナイスピッチング』みたいな感じがあって。『あの場面だけだったね』とか『あと1イニングは投げたかったね』という声掛けが大事。6回3失点でも負けるときはある。それは『ナイスピッチング』ではないんです」と語っている。
武器は縦のスライダー
チームに必要とされるポジションで貢献してきた。ドラフト1位で入団すると、新人の17年から規定投球回を3年連続クリア。19年に13勝4敗で最高勝率(.765)のタイトルを獲得している。身長172センチと投手としては小柄だが、キレのある直球、独特な軌道で鋭く落ちる縦スライダー、ブレーキが効いたチェンジアップを武器に打者を翻弄する。特に縦のスライダーは山岡の代名詞となっている伝家の宝刀だが、週刊ベースボールのコラムで習得したきっかけを明かしている。
「先輩に変化球の握りを教わり、試行錯誤を繰り返す中で、あるテレビ番組を目にしました。放送されていたのは、
ダルビッシュ有さん(当時日本ハム、現パドレス。以下・ダルさん)の特集で、スライダーの投げ方を明かしていたんです。握りを見てマネして、投げ方を参考に練習して覚えたのが、今のタテのスライダー。これを覚えたことで、飛躍的に投球の幅が広がり、ピッチングをより考えるようになったんです。なぜ、この球種を覚えたのかといえば、決め球がほしかったから。タテに大きく曲がり落ちる球種は空振りが奪えた。するとバッターはスライダーを意識するようになり、ストレートが生きていったんです。余談ですが、高3夏の甲子園で投げた僕のスライダーを見たダルさんが、ツイッターで褒めてくれましたが、そもそも元はダルさんのボールなんです」
国内FA権を取得
先発で投げ続けてきたが、23年のシーズン途中にリリーフへ配置転換に。首脳陣の期待に応える抜群の安定感でリーグ3連覇に貢献した。昨年は開幕直前に左足首を負傷し、6月に右肘を痛めた影響で、シーズン初登板は8月までずれ込んだ。6試合登板のみと不完全燃焼に終わっただけに今年へ期する思いは強い。現役時代に共にプレーした岸田監督は山岡への信頼が厚い。昨年のシーズン後に監督就任が発表されると、早々と救援で起用することを明言。「本当にありがたいです。やっぱり、先発か中継ぎか分からないと正直、調整の難しさもあったので。メリットしかありません」と感謝を口にしていた。
山岡は5月15日に国内FA権を取得した。スポーツ紙記者は「先発、救援といろいろな役割で力を発揮できるし、若手の良きお手本になる。今季の推定年俸6800万円で金銭、人的補償が発生しないCランクであることも他球団は獲得のハードルが下がる。FA権を行使するか注目されます」と話す。
オリックスに残留の可能性も十分にある。今はV奪回に向け、救援で右腕を振り続ける。
写真=BBM