確約されていない正捕手の座
巨人が7月27日の
広島戦(マツダ広島)で6対5と逃げ切り、3連勝で勝率を5割に戻した。この試合では「五番・捕手」で起用された
岸田行倫が3回に右中間を割る適時二塁打、5回に先頭打者で3号左中間ソロを放ち、3打点の大活躍。4回の守備で落球して出塁を許す失策を犯したが、打撃で取り返した。
7月の先発マスクをかぶるのは岸田がチームトップの8試合。
甲斐拓也が6試合、
小林誠司が3試合で続く。今年はソフトバンクからFA移籍した甲斐が開幕から29試合連続で先発出場していたが、5月以降は岸田の出場機会が増えるように。甲斐は球宴のファン投票で選出され、23日の第1戦では「七番・捕手」で先発出場している。先発した
ライデル・マルティネスら5投手とバッテリーを組んだ。昨年までチームメートだった
周東佑京(ソフトバンク)に二盗を許して苦笑いを浮かべていたが、ソフトバンク時代を含めて4度目となる夢の舞台を楽しんでいた。
だが、巨人で正捕手の座を確約されているわけではない。後半戦が始まると、岸田が2試合連続でスタメン出場。昨年は正捕手格だっただけに意地がある。打撃での活躍が光り、43試合出場で打率.296、3本塁打、17打点。規定打席に到達していないが、長打率.409はチームでトップクラスの数字だ。得点圏打率.314と勝負強さも光る。
異なるリーグでのプレー
ベンチで戦況を見守る機会が増えた甲斐だが、いばらの道は覚悟の上だっただろう。ソフトバンクで扇の要として黄金時代を築いたが、リーグをまたいで正捕手が移籍するケースは極めて珍しい。
城島健司(現ソフトバンクチーフベースボールオフィサー兼会長付特別アドバイザー)が現役時代にソフトバンク、
阪神の2球団でプレーしているが、メジャーのマリナーズでプレーして日本球界復帰する際に阪神に移籍しているため、甲斐と状況が異なる。
甲斐は交流戦や日本シリーズでセ・リーグの球団と対戦経験があるが、相手の打者について研究しなければいけない。もちろん、味方の投手ともコミュニケーションを取り性格を知って配球を組み立てる必要がある。今年の春季キャンプでは、「チームの動きを知ることもそうですけど、まずはピッチャー陣のことをよく知らないといけないですし、捕手としての僕をピッチャー陣に早く理解してもらえるようにしなければいけない。バッテリーを含めて、チーム全体としても僕自身をしっかり理解してもらいながら、僕もチームを理解できるようにしないといけない期間だなと思っています」と積極的にコミュニケーションを図る姿があった。
「学ぶべきものはたくさんある」
巨人に移籍した理由の一つとして、「野球選手である以上、常に学んで成長していきたい」と語っていた。週刊ベースボールのインタビューで、その真意を明かしている。
「そこはさらに追求していきたいです。キャンプでも夜になって1人で考えるときに、これから普段戦ったことのないチームと対戦するにあたって、やるべきことはたくさんあるなと思いますから。すべてを分かっているパ・リーグのままでいたほうがやりやすいに決まってるんですけど、それじゃちょっともったいないなって感じていたので。セ・リーグの野球の難しさというのは交流戦であったり、日本シリーズですごく感じていたので、まだまだ学ぶべきものはたくさんありますし、野球をしている以上はずっと付いてくるものだと思います」
ソフトバンクでは南海の大捕手だった
野村克也氏の背番号「19」を継承し、巨人に移籍後は
阿部慎之助監督が現役時代に着けていた背番号「10」を受け継いだ。2人の名捕手に認められた司令塔は、大きな覚悟を持ってプレーしている。
「最初は3ケタから始まって。『3ケタを着けているうちはプロ野球選手じゃないな』と自分でも思っていましたし、周りからもよく言われた時代だったので、『早く2ケタを着けたい』と思って野球をしていました。2ケタなら何番でもいいと思っていたんです。それでも支配下に上がって62番をもらい、この番号を自分の番号にできればと思っていたところに野村さんが『(自分が背負っていた)19番を着けてほしい』と声を掛けてくれた。そして今回は、阿部さんから同じように言っていただいた。人のつながりによって受け継がれてきたものが背番号なので、そういった思いは僕もつないでいけたらなと思います」
甲斐の力は巨人に必要だ。すべての経験を糧にし、絶対的捕手を目指す。
写真=BBM