粗い打撃に変化
巨人が踏ん張りどころを迎えている。8月1日の
DeNA戦(東京ドーム)で逆転負けを喫して2連敗。借金2で首位・
阪神と12ゲーム差に開き、3位のDeNAが0.5ゲーム差に接近してきた。
打線の奮起が期待される中で、粗さが目立っていたリチャードの打撃に変化が出てきている。7月31日の
中日戦(バンテリン)で4回に左腕・金丸夢斗の内角に食い込む直球を左中間に運ぶ二塁打を放つと、6回一死一、二塁の好機でも直球を左前に運ぶ適時打。移籍後2度目のマルチ安打をマークした。
ピンポン玉のようにはじき返す球界屈指の飛距離を誇るが、課題は選球眼だった。ソフトバンクではウエスタン・リーグで5年連続本塁打王に輝いたが、一軍定着できず。今年の5月12日に
秋広優人、
大江竜聖との交換トレードで巨人に移籍した。
二軍降格から再び一軍へ
主砲の
岡本和真が左肘靭帯損傷で長期離脱している事態で期待は大きかったが、なかなか快音が出ない。打率.095、2本塁打、4打点。6月12日のソフトバンク戦(みずほPayPay)でサイン見逃しのミスを犯し、翌13日に二軍降格となった。課題を見つめ直し、7月8日に一軍昇格。置かれた立場を考えると、少ないチャンスを生かさなければいけない。球宴前の最後の試合となった21日の阪神戦(東京ドーム)で7回に相手右腕のニック・ネルソンの低めの変化球を左中間に運ぶ同点3ラン。ソフトバンク時代を含めて右投手から初めて放った本塁打で試合の流れを変え、サヨナラ勝ちを呼び込んだ。
さらに、26日の
広島戦(マツダ広島)では同点で迎えた7回一死一塁で、
中崎翔太の直球を振り抜いて右翼ポール際のフェンス直撃の適時二塁打。この一打が決勝打となり、「まだ優勝に向けて誰もあきらめてないんで。とにかく必死です」、「やっぱり1位をみんな目指してると思うので。頑張って追いついて追い越せるように。また頑張っていきます」とお立ち台でナインの思いを代弁した。
30試合に出場して打率.155、3本塁打、9打点だが、7月に一軍再昇格後は29打数7安打、打率.241、1本塁打、5打点。まだまだ満足できる成績ではないが、凡打した打席でも進塁打を打つなど対応力が上がっている。8月は1日のDeNA戦で無安打に終わったが、4回無死一、二塁の好機で打席が回ってくるとフルカウントから2球連続で直球をファウルし、最後は外角低めに沈むチェンジアップを見極めて四球で出塁した。安打を放つ以上に価値のある打席だった。
巨人移籍で開花したスラッガー

西武から巨人へ移籍し、長打力が本領発揮となったデーブ氏
巨人に移籍し、素質を開花させた長距離砲で浮かぶ選手がデーブ大久保氏(
大久保博元)だ。水戸商高で高校通算52本塁打を放ち、西武にドラフト1位で入団し、「強打の捕手」して将来を嘱望されたが、当時の西武は黄金時代だった。本職の捕手は球界を代表する名捕手で知られる
伊東勤が君臨。指名打者は3年連続本塁打王に輝いた
オレステス・デストラーデの定位置だった。デーブ氏は1989年に当時イースタン記録の24本塁打、70打点で二冠王に輝いたが、なかなか一軍に定着できない。
野球人生の大きな転機が92年5月に巡ってくる。
中尾孝義との交換トレードで巨人に移籍。いきなり正捕手に抜擢され、6月に月間MVPを受賞するなど前半戦で打率.300、12本塁打をマークした。当時巨人の打撃コーチだった
中畑清氏と週刊ベースボールの企画で対談した際、「実はまだ自分が活躍しているのが信じられなくて、よく女房と話をするんです。“いいよな、いい夢を見たよな”って。まだ次の日のことなんて考えられない。一夜にして、またファームに落ちちゃうんじゃないかっていう……」と振り返っている。活躍しても浮足立つことはない。危機感が体を突き動かしていた。
4年ぶりのリーグ優勝を飾った94年は古巣・西武と対戦した日本シリーズ第4戦で同点アーチを放ち、日本一に貢献した。95年限りで28歳の若さで現役引退したが通算41本塁打のうち、35本塁打は巨人でプレーした4年間で積み上げた。
リチャードとデーブ氏は25歳のシーズン途中に巨人にトレード移籍したという共通点がある。希少価値のある大砲は覚醒するか。すべての打席に野球人生を懸ける。
写真=BBM