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西武・今井達也が7月の不調から復活を遂げた理由…黒木優太にもらった「縦とじ」グラブ

 

明らかに違った感覚


強力な西武先発陣をけん引している今井


“らしい”今井達也が帰ってきた。

「ファンの方にとっての『希望』、対戦相手にとっての『絶望』でありたい」と話す昨季の奪三振王は、今季も開幕から圧倒的な投球でファンを魅了し、相手打者を翻弄してきた。だが、6月27日の日本ハム戦(ベルーナ)で熱中症のため4回途中で降板。以後、7月の3試合はトータル11失点(自責9)、防御率5.40で0勝2敗。自身がバロメーターとする「ハイクオリティースタート(HQS=先発で7イニング以上を投げ、自責2点以下)」だけではなく、先発投手の責任として本人がもっとも重要視している「長い回を投げてゲームを作る」という部分でも、3試合連続で5回降板と、本来の投球とはほど遠い内容が続いた。体調不良だけではない。起用選手や打線の組み方など、相手チームが明らかに“今井対策”をしてきていることは明らかである。そうしたことを含め、「いろいろなことが重なってしまった」と今井は苦悩の7月を振り返った。

 そんな中、その負のサイクルから抜け出すきっかけがあった。7月31日のオリックス戦(京セラドーム)で5回0/3を6失点(自責4)、今季4敗目を喫した翌日、練習中のキャッチボールでのことだったという。そこで出合ったのが、黒木優太の使用する「“縦とじ”のグラブ」だった。

 今井はここ数年、師事するトレーナーが鴻江寿治氏という共通点と同トレーナーの助言から、体の使い方が同じ千賀滉大(メッツ)モデルを元とした型のものを愛用し続けてきた。そのグラブは土手の部分が“横とじ”だった。8月1日のキャッチボール中、黒木に何気なく「僕、グラブを引きたいんですけど、横とじだと引きにくいんですよ」と投球フォーム的な話をしているとき、黒木が左手にはめるグラブが目に留まった。

「黒木さん、縦とじじゃないですか。ちょっと借りていいですか?」

 手を通させてもらうと、明らかに感覚が違った。

「“軸”が違うので、姿勢とかバランスとかが全然違うんです。縦は(指を)立てられるので背中が張りやすくなる。横は握る感じで使うので、どうしても背中が丸くなりやすくなる。去年はそれでよかったんですけど、今年はなんかすごく『ここからもう1つ、何か変わらなければいけないな』と思っていて。それがこれ(グラブ)でした。本当に全然違います!」

 投球内容、結果も含めた負の流れ、メンタルなど、すべての観点において現状打破を求めていた今井にとって、「道具を変える」という選択は目からうろこだった。

「僕はずっと同じものを使ってきたから、違いがはっきりと分かるんですよ。逆に、だからこそ道具を変えるのって勇気が必要で。道具を変えたり、投球フォームを変えたりって、特にシーズン中は相当な覚悟がないとできないことなんです。でも、何か大きく変えようと思ったら、それぐらい思い切ったことをしないと変わらないんですよ」

 つまり、それほどまでに今井は「変化」を求めていたのである。

戻ってきた圧倒的オーラを放つ投球


8月7日の日本ハム戦、縦とじグラブを使用し、1カ月半ぶりの勝利を飾った


「これ、もらっていいですか?」という向上心の塊のような後輩からの唐突なおねだりに、黒木は二つ返事で「いいよ」と応じてくれた。

「次の試合、これで投げます」

 手に入れたばかりの縦とじグラブを優しく叩いてみせると、潮目を変えるための光明が見つかったすがすがしさと、どこか懐かしさを秘めた表情で続けた。

「僕、もともと高校、甲子園のときに、これ(縦とじ)を使っていたんですよ。だから、はめた瞬間に『こっちだ!』と思って。もうその日のうちにメーカーさんにオーダーして、いま、急いで作ってもらっているんです」

 そして実際、8月7日、15日の試合では黒木からもらったグラブを使用しての登板だった。7日の日本ハム戦(エスコンF)では7回115球を投げ1安打11奪三振、無失点の快投で6月17日以来の勝利投手となった。15日のオリックス戦(京セラドーム)は、黒星となったものの8回を完投し1失点。この2試合で、明らかに相手を見下ろすような、対戦相手に絶望感を与え、味方には希望とワクワク感をもたらす圧倒的なオーラを放つ投球が戻ってきた。

「僕の中で一番大事なのはコントロールよく投げること。そこを決めるのは最初の立ち方なので、その意味でも(グラブがもたらす影響は)大きかったです」

 今井は以前から「最初に構えた時点でどんなボールが行くかが決まるので」と話し、構えたときの立ち姿を非常に重要視してきた。「そこさえ決まれば、勝手に球速は出るものなので」とすら言い切っていたはずの「肝」が、特に7月は「しっくりこない」状態だったが、縦とじグラブのおかげで感覚を取り戻すことができた。

 8月23日のロッテ戦(ZOZOマリン)では、「どうしても夏場で汗をかいてしまうので、グラブもすぐにへたってしまうんです。そうなると縦とじを使うよりも、ふとした瞬間に目に入る、色とか形とかがずっと自分が使ってて馴染んでいるほうが落ち着くので」との理由から、3試合ぶりにこれまで使ってきた自身の横とじグラブに戻した。それでも今季2度目の完封勝利という最高の結果を手にしたということは、完全に1つの壁を乗り越えたということだろう。

 さらに同タイミングで「糸川(糸川亮太)にシンカーを教わったことが大きかった」とも、のちに今井は明言している。「シンカー」という新しい球種を習得し、「握りを聞いて、キャッチボールで投げてみたら試合で使えそうだったので。フォークを覚えたとき(2023年)みたいに、空振りを取れる球種が増えて久しぶりに投げていてすごく楽しい」と、しばらくぶりに少年のような笑顔を見せた。

 グラブ変更も新球種シンカーも、シーズン中にトライするにはあまりにリスクが多い。それでも現状打開、自らの進化を常に求めているからこそ今井にだからこそ訪れた、まさに「セレンディピティ」だった。

 そして、すでに「もっと上へ」と次なる自分を求めて歩を進めている。唯一無二の存在へ。背番号『48』はまだまだ自己探究を極めていく。

文=上岡真里江
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