先発で試合をつくる能力

プロ9年目の今シーズン、FA権を取得した柳
今オフのFA市場で去就が注目されている選手が、
中日の
柳裕也だ。今季は右肩の違和感で長期離脱した影響で3勝5敗、防御率3.29。14試合登板で79回1/3にとどまった。夏場まで防御率2点台前半で終盤に打ち込まれる登板が続いたが、先発で試合をつくる能力は高い。今年取得したFA権を行使した場合、他球団が獲得に乗り出す可能性が十分に考えられる。
プロ3年目の2019年に初の2ケタ勝利となる11勝をマークすると、21年も自己最多タイの11勝で最優秀防御率(2.20)、最多奪三振(168個)の2冠に輝いた。同年から3年連続150イニング以上を投げ、先発陣に不可欠な存在だった。チームを思う気持ちは誰よりも強い。選手会長に就任した23年。春季キャンプイン前日の1月31日に宿舎で行われた全体ミーティングで「弱いドラゴンズをもう終わりにしよう」、「負けに慣れてしまっている。その悔しさを今年こそ絶対に晴らそう」など熱弁し、選手やチーム関係者から「スピーチに感動した」と反響を呼んだ。
低迷脱出への強い思い
柳は週刊ベースボールのインタビューで、真意を語っている。
「ずっとチームが低迷している中で、こうやって毎年、1月31日を迎えて全員で集まって『明日から1年頑張ろう』と言っている。でも結局、シーズンが終わってみればBクラスだったり、最下位だったり。もうこんな状況を打破したい、しなければならないということですね。何とか全員で弱いドラゴンズを終わりにしようということを言わせてもらいました。こんな状況なのに、それでも応援してくれる
大勢のファンがいる。でもそれは当たり前のことじゃないと」
「
高橋周平さん、
木下拓哉さん、具体的な個人名も挙げて、僕も含めた中堅どころが頑張っていきましょうと。そこが中心になって頑張っていかないと何も変わっていかない。若手に対しても、試合に出ているような選手はチームのみんなから信頼を得られるように、野球はもちろんのこと、私生活や態度でもしっかりやってもらいたいと話しました」
中日はその後も低迷期を脱していないが、光は見えている。投打で若手が次々に頭角を現し、昨秋のドラフト1位で4球団が競合した
金丸夢斗に続き、今年のドラフトでは大学No.1右腕の呼び声が高い
中西聖輝の単独1位指名に成功。
高橋宏斗とともに強力な先発3本柱として期待される。その中で、柳のお手本となる投手が、37歳左腕の
大野雄大だ。
5年ぶりに2ケタ勝利の左腕

今シーズン、11勝と復活を果たした大野
23年は4月に左肘の遊離軟骨除去手術を受けて1試合登板に終わり、昨年も9試合登板で2勝止まり。背水の陣で今年を迎えたが、20試合登板で11勝4敗、防御率2.10と見事に復活した。
「5年ぶりに10勝に到達(9月14日)。2ケタ勝利は特別ですね。まさか今年、自分が10勝できるとは思ってなかった。あきらめずにやってきてよかったです。京都出身で小さなころから、
阪神ファンでした。好きな球場(甲子園)で2ケタ勝利を挙げられたことがうれしかったです。今年は、遅いボールを使うようになりました。スライダーとカーブの間、スラーブです。9月26日で37歳。真っすぐでガンガン行くわけにもいきません。何か打者の目線を変えると言いますか、新しいスタイルをつくらないと生き残っていけません。球速は多少落ちても質はなるべく落ちないように。新しい変化球を交ぜながら、何とか生き残っていきたいと思っています」と語っていた。
大野は20年に20試合登板で11勝6敗、防御率1.82で2年連続最優秀防御率、自身初の最多奪三振(148)のタイトルを獲得。10完投、6完封はいずれもリーグ最多で、球団史上16年ぶりの沢村賞を受賞した。同年オフはFA市場の目玉として争奪戦が予想されたが、FA権を行使せずに3年契約で残留を決断。「このチームで優勝したい」とチーム愛を吐露していた。
柳も大野と同様にファンから絶大な人気を誇る。近年は故障の影響で不本意なシーズンが続いているが、愛着が強い中日で輝きを取り戻すか、環境を変えて新天地で復活を目指すか。熟考の末にどのような決断を下すか注目される。
写真=BBM