気迫のこもった16球

11月1日、現役最後のマウンドに上がった植村[写真=喜岡桜]
虎のように吠える左腕だった。
阪神タイガースWomenは10月27日、植村美奈子投手、水流麻夏投手、前田葵内野手、日野口加奈外野手、三村歩生内野手が、今シーズンで退団することを発表した。2021年のチーム始動から在籍した植村と水流の退団をもって、創設メンバー17人全員が縦縞のユニフォームを脱いだことになった。
今季限りで15年間の現役生活に終止符を打つ植村は「去年には、この先どうしようかなと悩んでいました。今年10月の全日本選手権が終わったあとに、
木戸克彦監督と話す機会があったので(引退の意志を)伝えました」と話す。
女子硬式野球の古豪・神村学園高を卒業した2011年から女子プロ野球リーグで10年間プレーし、2019年には最多勝利、最高勝率、最多奪三振の3冠に輝き、2度目のベストナインを受賞している。その後は阪神の一員として女子野球の最前線で腕を振った。小さいころから大の虎党で、2021年の阪神ホーム開幕戦の始球式を務めたときには感極まって涙。一般企業で働きながら、左のエースとして2023年の女子チーム初の日本一に貢献した。
ラスト登板となった11月1日。兵庫ブルーサンダーズとのラッキートーナメント最終戦は先発を任され、二番打者を一邪飛に打ち取り1つ目のアウトを奪うと、一死三塁のピンチで打者のバットを泳がせ、走者をタッチアウト。四番打者に1球目を投じると、田垣朔來羽捕手が二盗を狙った走者を刺し、このイニングを無失点で終えた。
気迫のこもった16球。「予期せぬ終わり方ではありましたが、キャッチャーが助けてくれる、野手がナイスプレーをしてくれる5年間でしたので、本当に私らしい(1イニングだった)なと思います」。チームは、西本夢生が左中間に放った特大3ラン本塁打などで10対2(6回
コールド)の逆転白星を挙げ、ラッキートーナメント優勝で幕を下ろした。
「1期生としてユニフォームを着ることができたのも、結果が出ないときも首を切らずに使い続けてくれたお陰で長く着られたことも、光栄というか。感謝の気持ちしかないです」
涙が白い頬をつたう。低く大きな声をあげながら投じるクロスファイアーに、よく通る声でベンチから飛ばす愛のこもった野次。そんな選手としての植村に加え、聖地のスタンドでプラスチックバットを叩いて酒を飲む、ただのファンの姿も、虎党たちから愛された。
「来年からは、いち“大ファン”としてスタンドから大声で応援します」
マウンドには別れを告げたが、公私ともにあった猛虎魂はこれからも熱いままだ。
取材・文=喜岡桜