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廣岡達朗コラム

ヤクルトはなぜもっと廣岡大志を使わないのか/廣岡達朗コラム

 

石川はクローザーにすべき


今季は10月20日現在、72試合に出場して打率.182、4本塁打、10打点の廣岡


 私はヤクルトでお世話になった。最初に監督になったとき、当時の松園オーナーからは「私はトレードが嫌いだ。縁があってウチに来た選手を育てて勝ってくれ」と言われた。あの言葉が指導者としての原点になっている。

 そんなわけで、いまもヤクルトのことを気にして見ている。

 昨年、チームは最下位になった。ところが、オフに指揮官に就任した高津臣吾監督は会見で「来年はAクラス、そして優勝を視野に入れて(選手には)やっていってもらいたい」と話した。

 いまの指導者は、正しいことを教えたら、今日の明日で答えが出ると勘違いしているのではないか。最下位になったチームが翌年優勝したのは過去に数例。プロの世界は甘くない。大切なのは、何年も同じことをやり抜くことで選手は一人前になるという信念を、指導者が持つことだ。

 かつてヤクルトには、水谷新太郎というショートがいた。箸にも棒にもかかわらず、コーチ陣は「もう無理です」とサジを投げた。そこで私は「なせばなる。答えが出るのが早いか遅いかだけだ。だから続けてくれ」と諭した。水谷は“緊張しい”だった。こういう男に「リラックスしろ」と言っても余計に硬くなるだけ。そこで私は「思い切り緊張しろ」と逆のプレッシャーをかけた。すると水谷の肩から見る見る力が抜けていった。入団5年目にレギュラーを獲得。人間がモノになるのは、それだけの時間がかかるのだ。

 翻って今年のヤクルトは首位とのゲーム差が昨年以上に広がって24.5ゲームだ(10月14日現在、以下同)。物事の結果には、必ず原因がある。

 村上宗隆が四番として様になってきたが、このチームには改善すべき点が多々ある。

 石川雅規は年齢とともに衰えてきている。頭は冴えても体が全盛期ほど動かない。スタミナがないのだ。にもかかわらず、首脳陣は「何とか白星を」ということで先発起用に固執。中6日休ませて本人は休養十分でマウンドに上がっても、1回りは抑えても途中で持ちこたえられなくなってしまう。私は何年も前から言っているが、石川は現役最多の172勝を挙げたほどの男なのだからクローザーにすべきだ。「最後の1イニングを頼む」と言えば、本人も意気に感じるし、チームにもプラスに働く。石川を勝たせたいという家族的な温情より、最優先されるべきは勝利だ。仲良しこよしはいらない。

クリーンアップを打てる素材


 ヤクルトには、私と同じ名字の廣岡大志という内野手がいる。足の速さ、肩の強さ、背の高さ、顔の良さ。どれをとってもクリーンアップを打てるだけの素材だ。外野手を兼用させるのなら、もっと出場機会を与えるべきだ。ところが、代打でヒットや本塁打を打っても翌日のスタメンで使わない。なぜ廣岡を育てようとしないのか。

 私が初めてヤクルトの監督に就任したとき、あるトレーナーが選手の総意を伝えに来た。「監督の言うとおりのメニューでウォーミングアップをしたら、選手は故障します」。そのときに私は「故障して最下位なら俺は納得するが、元気なのに最下位というのは我慢できない」と突っぱねた。その結果、ヤクルトは1978年に優勝した。

 私の言葉の本質を理解できない人は「廣岡は冷たい。鬼のようだ」と言う。冷たいのではない。人の道を教えているのだ。いまに分かる。
 
『週刊ベースボール』2020年11月2日号(10月21日発売)より

廣岡達朗(ひろおか・たつろう)
1932年2月9日生まれ。広島県出身。呉三津田高、早大を経て54年に巨人入団。大型遊撃手として新人王に輝くなど活躍。66年に引退。広島、ヤクルトのコーチを経て76年シーズン途中にヤクルト監督に就任。78年、球団初のリーグ制覇、日本一に導く。82年の西武監督就任1年目から2年連続日本一。4年間で3度優勝という偉業を残し85年限りで退団。92年野球殿堂入り。

写真=BBM

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