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大岩Larry正志[ユニフォームデザイナー]インタビュー 奥深きユニフォームデザインの世界。

 

今も昔も野球ファンを魅了するユニフォーム。人々の記憶に残るモデルは、その多くが優れたデザイン性を備えていた。ヤクルト楽天などのユニフォームを手掛けるラリー氏に、ユニフォームデザイナーとしてのこだわりを語ってもらった。
取材・構成=滝川和臣 写真=高野 徹、BBM


ユニフォームをデザインするきっかけ


──今年のユニフォームでデザインを担当しているのは。

ラリー ヤクルトはホーム用とビジター用(2016年〜)と、企画用(燕パワー、CREWユニフォーム)です。楽天は今のホーム用とビジター用は書体デザインなどの全体監修を。昨年から続く企画ユニ(TOHOKU BLUE、FAN'S)は、僕が担当しました。

細いストライプ、三色リブが目を引くヤクルトのホーム用


──今年で6年目となるヤクルトのユニフォームのこだわりは。

ラリー ホーム用はストライプの太さ、幅ですね。ミリ単位の話なんですが、メジャーっぽく細くしています。あとはエリとソデの3色リブ。これを付けたことでポップになった。3色リブは、ほかの企画ユニにも付けられたりするので、今のヤクルトのユニフォームの特徴と言えるかもしれませんね。

ビジター用の胸文字は筆記体。ホーム用とともに16年から使用


──そもそも、ラリーさんがユニフォームデザインを始めたきっかけは。

ラリー 10代のころから野球が大好きで、のちに大人になってから「野球知識検定」で100点を取るんですけど、いわゆるオタク。選手、記録、日付など覚えるのが好きで、ユニフォームやロゴなどの周辺の文化にも興味があった。当時MLBのカンセコとマグワイアの“バッシュブラザーズ”のアスレチックスなどを見てアメリカのデザインが気になっていて、そこにNBAのマイケル・ジョーダンのシカゴ・ブルズのキャップやユニフォームを日本でも目にするようになったんです。僕は滋賀県出身なんですけど、夏休みや春休みになると東京・渋谷のワールドスポーツプラザでアメリカのユニフォームを1日中眺めていた。当時は3万、4万円とかして買えなかったですから。そんな10代を過ごしました。

──その後、美大に進んで卒業後はフリーのデザイナーに。

ラリー はい。引き続き、野球の出来事や記録は追い掛けていました。週刊ベースボール、月刊ジャイアンツ、月刊ドラゴンズなどあらゆる野球雑誌を購入していました。あるとき、自分にしかできないことって何だろう? と考えたときに、人より負けないジャンルがあった。それが野球であり、ユニフォームだったんです。ちょうどイチローがメジャーで活躍していた時期で、日本でもマリナーズのユニフォームを着ている人が増えたりして。メジャーのユニフォームはヤンキースをはじめ、ファンが普段の生活の中で着られるデザインが多い。日本でもそれができないか、街着にできるユニフォームをデザインしたいと漠然と思っていました。それで「こんなユニフォームがあったらいいな」をテーマにした個展を開いた。

──それは個人で?

ラリー そうです。個展を開いた時期は、ちょうどサッカーの日韓W杯のタイミングで世間がサッカーしか見ていない中、野球のことを考えていたことが次につながっていくんです。それは僕の教訓になりました。多数が右を見ているなら、僕は左を向こうと。その後、知人を通して西武球団の方を紹介していただき、2008年の交流戦限定ユニをデザインしたのがユニフォームを手掛けた第一号ですね。

──そのころから、イベントユニや交流戦ユニが増えていきました。

ラリー やはり04年の球界再編が大きかったと思います。あのゴタゴタはもちろん暗い話題ですが、おかげで巨人も含めて球界がファンサービスに率先して取り組むようになった。そのファンサービスの1つとして企画ユニフォームを展開する球団が増え、以前からユニフォームについて考えていた僕にとっては、いい機会となりました。

昨年に続いて今季も採用される楽天の「FANS'ユニフォーム」もラリー氏がデザイン[写真=楽天野球団]


大切なのは野球への造詣、知識


──ユニフォームのデザインについても聞いていこうと思いますが、プロ野球のユニフォームは誰がデザインしているのでしょう。

ラリー かつてはスポーツメーカー社内のデザイン室が担当することが多かったのではないでしょうか。現在ではデザイナーという肩書の方々が担当されていると思いますが、その方々がどれだけ野球に接していたかは定かではありません。というのも、デザイナーにもそれぞれ得意分野があり、アメリカにはスポーツ専門のデザイン事務所があるように、本来ならユニフォームは野球の造詣が深い者が専門的にやるべきだとは思います。まったく野球と関係のないデザイナーがユニフォームの基本的なルールを無視して作るのは、例えるなら、骨折しているのに、歯医者に診察してもらうようなものですから。僕はスポーツデザイナーとして、こだわりを持ってデザインしています。

──どんな流れ、どんな作業でデザインは決まっていくのですか。

ラリー 球団によって考え方というか、リクエストは異なりますね。ヤクルトなら「燕パワーユニはグリーンでいきましょうか」というように、色先行でリクエストされることが多い。楽天なら色の前に、ユニフォームのテーマ決めからスタートする場合もある。作業自体はMacを使います。僕のこだわりとして、一軍のユニフォームを柄物でデザインはしないので、基本的には無地か、あってもストライプです。あとはラインの入れ方の組み合わせのなどの中でデザインをします。選択肢は多くない分、ラインの幅など知識やセンスが必要となる。

──特殊なパソコンのスキルよりも、野球、ユニフォームに関する知識やセンスが求められると。

ラリー そうです。ラインをどのくらいの太さ、間隔はどうするか。文字間もユニフォームをカッコよく見せるための大切な要素です。

──色、文字のフォントなどデザイナーはどこまで手掛けるのですか。

ラリー 文字やラインの色、大きさ、場所、位置も含めてすべてです。細かな調整はサンプルが出来上がってから本格的に球団の方との照らし合わせになります。画面上の作業よりこちらの作業のほうが多いかもしれません。僕の場合、余計なことはしない“シンプル”を目指してますが、何もしないということではなく、手を加えているのにシンプルと思わせるのはとても難しい。なので、最低限の構成要素である胸ロゴや番号と名前の書体、ソデに付くロゴなどの完成度がすべてです。

スポーツロゴの制作もデザイナーの大切な仕事の一つ。洗練されたロゴはユニフォームを引き立てる


──ロゴなどもデザインされているのですね。

ラリー ユニフォームに貼られるイベントロゴなども作ります。スポーツロゴはイラストの要素が大きいので、将来ユニフォームデザインをやってみたいという方は、これを作る能力は必ず必要となります。つまり、鉛筆を持ったときに絵が描けるか──イラストを描く力です。ユニフォームをデザインするだけではなく、胸ロゴや書体、ロゴ類も作れなければ成立しません。

──ユニフォームのデザインに“教科書”はありますか。

ラリー 僕はメジャーのユニフォームがお手本です。自分がカッコいいと思ったものを教科書にしています。胸番号一つにしてもメジャーはすごく大きなサイズで、日本は小さい。エンゼルス時代の松井秀喜のユニフォームは「55」がお腹を隠してしまうほど大きくて、カッコよかった。ドジャースも大きくてすごくかわいい。初めて、西武でユニフォームのデザインを担当したときは胸番号のサイズ変更を伝えられず、今思えば後悔もあります。そんなこだわりも、一つひとつ伝えていきたいです。

──選手がユニフォームにソデを通して初めて完成となる。

ラリー 実際には、選手に着てもらってからも調整はあります。昇華プリントだと細い線がきれいに出る一方で、若干にじんで実際より太く見えるときもある。そうした調整も必要です。選手の着こなしも考慮しなくてはなりません。最近は短いパンツを履きストッキングを見せる選手がいるので、そういう選手のためにストッキングをデザインすることもあります。ヤクルトだと雄平選手、青木宣親選手、山崎晃大朗選手がショートパンツ。燕パワーユニフォームのときは、ストライプが入ったストッキングを用意します。僕は、今年から独立リーグの四国IL/高知のデザインも担当していますが、高知はストッキングを出す前提にデザインしています。

ラリー氏は、今季より独立リーグの高知ファイティングドッグスのデザインも担当する


──デザインにあたり一番こだわっている点は。

ラリー やっぱり街で着たくなるようなユニフォームを作りたいですね。もともと洋服が起源のユニフォームです。当時なかったような新しい技術を入れて作るつもりはありません。ストライプを入れたり、袖にリブをつけたり、ラインを入れるくらいシンプルでいい。あとは胸ロゴと書体の大きさ、バランス、位置。それだけで勝負したいですね。

──デザインをしていて、うれしい瞬間はありますか。

ラリー 街着にこだわっているので、例えばヤクルトのユニフォームを着たファンは試合が終わっても神宮球場から家まで着たままで帰ってほしいんです。そういう意味では、表参道のハイブランドのショップの前を通るヤクルトのユニフォーム姿のファンを見るとテンションが上がりましたね(笑)。今はコロナ禍で、スタジアムに入れる観客数は制限されていますが、早く応援するユニフォームを着たファンで埋まったスタンドが戻ってきてほしいですね。

PROFILE
おおいわ・らりー・まさし●アートディレクター/ボイスアクター。過去には西武ライオンズ、福岡ソフトバンクホークス、現在は東北楽天ゴールデンイーグルス、東京ヤクルトスワローズのユニフォームやロゴ、グラフィックのデザインを手掛ける。その他、BリーグやJリーグチームも同様のディレクションをするなど、国内随一の実績を誇るスポーツデザイナー。

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