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廣岡達朗コラム

川上哲治さんにまつわる美談。プロというのはプライドの塊である/廣岡達朗コラム

 

努力が要らない時代


自他ともに認める巨人の四番だった川上哲治


「運命のドラフト」とは、よく言ったものだ。最初に入る球団、そこで出会った監督によってプロ野球選手の人生は決まる。まさに運命だ。

 巨人は首位ヤクルトに10.5ゲーム差をつけられた(10月11日現在)。ヨソのチームからクリーンアップばかり金と名前でかき集めてくるのだから、本来であれば、ダントツで勝っていなければおかしい。

 にもかかわらず、この体たらくだ。結局、他球団から来た連中は小技を教わっていない。負けが込むと、俺が俺がと強振するから三振ばかりだ。良い投手には軽くひねられてしまう。私が監督なら、打撃陣に映像を見せて、なぜこの投手にやられるのかを分析する。もちろん打者によって相手投手の攻め方は違う。一人ひとりに映像を見せながら、自分にはこの球が来るということを覚えさせるのだ。

 そういう指導をいまの首脳陣はしているのか。個々が勉強していれば、専門のスコアラーは要らないのだ。

 巨人のようにクリーンアップを打つ選手を七、八番に置いていると、チームが勝てなければヘソを曲げるのは当然だ。また、球場に行ってみないと今日の先発スタメンが分からないような起用をしているから、選手のほうも事前に考えてこない。欠点だらけだ。

 水原茂さんが巨人の監督を務めていた時代は、各人が命懸けでポジションを獲った。俺じゃないと務まらないというプライドを持っていた。自分のライバルが同じように教えられていても、そいつに負けないように圧倒的な努力をした。

 いまは努力が要らない時代になった。人工芝のグラウンドが当たり前。土に比べて人工芝は楽だ。選手に横着をさせる。私なら目隠ししても捕れる。

 もう一つ、体重さえ増やせばパワーアップするという勘違いがはびこっているのも問題だ。発想が単純そのもの。体が大きいほうがいい? 何もかもアメリカのマネをすればいいというものではない。日本人の良さはしなやかで柔らかい筋肉にこそある。ここは日本だから、こうしろ、ああしろと根拠を挙げて指導すべきである。

 とにかく、いまの野球は見ておれん。球界全体を見ても、来年Aクラスになるためにやっているな、3年で優勝するためにやっているな、という希望的観測が見えるチームがない。

「カワさんは巨人の顔です」


 私から言わせれば、プロではない。プロというのはプライドの塊だ。

「打撃の神様」と称された川上哲治さんは、スランプだからといって「六番か七番を打て」と命じられたら辞める。「バカにするな」――それが四番のプライドなのだ。

 1956〜58年の日本シリーズで巨人は西鉄ライオンズに3連敗を喫した。いつの年の選手権だったかカワさんは責任を感じて「俺がいるせいでチームが負けるのなら、ベンチに下がる」と言い出した。そのとき、ナインは「カワさんは巨人の顔です。下がることはない。頑張りましょう!」と必死に止めたものだった。あれは美談だった。

 いま、そんな人間がいるだろうか。クリーンアップを打っていた選手が七番に下がっても、「はいそうですか」と平気な顔で“降格”を受け入れる。「チクショウ」と悔しさをむき出しにする根性のある選手は、どこにいるのだろうか。繰り返す。プロとはプライドの塊である。

『週刊ベースボール』2021年10月25号(10月14日発売)より

廣岡達朗(ひろおか・たつろう)
1932年2月9日生まれ。広島県出身。呉三津田高、早大を経て54年に巨人入団。大型遊撃手として新人王に輝くなど活躍。66年に引退。広島、ヤクルトのコーチを経て76年シーズン途中にヤクルト監督に就任。78年、球団初のリーグ制覇、日本一に導く。82年の西武監督就任1年目から2年連続日本一。4年間で3度優勝という偉業を残し85年限りで退団。92年野球殿堂入り。

写真=BBM

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