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昭和ドロップ!

『昭和ドロップ!』とWBCについて語ろう(後編)/『昭和ドロップ!』

 

 定岡正二氏、篠塚和典氏、川口和久氏、槙原寛己氏の書籍『昭和ドロップ!』が5月2日にベースボール・マガジン社から発売されます。

 昭和に生まれ育ち、昭和、平成に輝いた4人が、巨人長嶋茂雄、青春の多摩川ライフなど、あのころのプロ野球を愛あり笑いありでたっぷり語り合う1冊です!

 これは不定期で、その内容の一部を掲載していく連載です。ちなみにこの話は書籍未収録です

空振り? になった村上への伝言


『昭和ドロップ!』表紙


 2020年より、定岡正二さん、篠塚和典さん、川口和久さん、槙原寛己さんでお届けしてきた『週刊ベースボール』の人気連載『昭和ドロップ!』がついに書籍化!

 今回はその宣伝も兼ね、槙原さんのYouTube『ミスターパーフェクト槙原』に、鳥取にいる川口さん以外の3人が出演したものを抜粋し、文章化したものである。

 取材はちょっと前の3月27日、3人の頭も心もWBC一色の時期だ。

槙原 WBCでのMVPは誰でしょう。実際には大谷翔平(エンゼルス)でしたが、お二人はどう思いますか。語りたいシーンもたくさんあるでしょ。

定岡 シーンで言えば、大谷のおたけびかな。マウンド上の気迫がすごかった。優勝を決めたとき帽子を投げたり、(準決勝のメキシコ戦9回裏に)帽子を投げ捨てての二塁打で、そのあとベンチに向かって、みんな来い、来いってほえてたでしょ。あんなの見たことない。すごかったな。

槙原 いろいろな優勝シーンを見てきましたけど、帽子を投げる選択肢はなかったんですよね。

定岡 長嶋茂雄監督がゴルフでバーディを取ったときを思い出したよ(笑)。

槙原 僕はジュリー(歌手・沢田研二さん。『勝手にしやがれ』で最後、帽子を客席に投げた)かと思いました(笑)。そう言えば、その前のメキシコ戦では、吉田正尚(レッドソックス)の3ランで、佐々木朗希(ロッテ)が帽子を投げてましたね、真下に。あれは間違いなく170キロ出てました(笑)。3ランで俺の3失点を帳消しにしてくれた、負け投手じゃなくなった、ということでしょうね。

篠塚 あのホームランは大きかったな。

槙原 あれがなかったら0対5くらいで負けてたと思います。

定岡 ふつうならファウルだよな。

篠塚 大谷はすごかったし、MVPでまったく問題ないけど、僕は吉田かな。この3ランがなければ勝利はなかったと思うし、13打点はWBCの記録だったしね。

定岡 僕は栗山英樹監督にあげたいんだ。チームをまとめ、選手を信じる力を貫いた。あの信念の強さはすごいよ。流れをつくったヌートバーのペッパーミルもあったけど、栗山監督の言葉の力、選手のパフォーマンスの力、どっちもクローズアップされた大会だったよね。

篠塚 でも、みんなMVPをあげたいな。キャッチャーの中村悠平(ヤクルト)も頑張ったし、苦しんで最後に打った村上宗隆(ヤクルト)もいるしね。

槙原 村上と言えば、準決勝が終わったあと僕のところにシノさんからメールが来て「マキ、お前、あした村上に会えるか」って。「会えると思います」と返したら「俺のメールを見せろ」。

篠塚 村上が苦しんでいたでしょ。彼は若いから、そういう経験も大事なのかもしれないけど、決勝は彼の正念場だと思ったし、気になってね。ずっと誰か言わないのかと思っていたんだ。

槙原 バットのヘッドの話ですね。

篠塚 そう。打てなくなると、バッターはどうしても体がかがみ、小さくなるんだ。そうなると、バットのヘッドが段々グリップより外に行き、どうしても遅れちゃうんだよね。ただ、ヘッドだけを内にしようと意識しても、なかなか修正できない。握りで親指にヘッドの重みを感じていたと思うんだけど、そうじゃなく、親指と人差し指の間にかけようとする感覚になると、自然とヘッドが外に行かなくなり、バットの出がよくなる。それをマキにLINEしたんだ。

槙原 それを見て村上が決勝でホームランを打ったとなれば、すごい話なんですが、僕が村上に会えなかったんですよ。決勝は人が多かったんで。

定岡 いい話だけど、それを空振りしちゃうのもマキらしいね(笑)。

槙原 僕はいつもクールなシノさんに、そういう熱いところがあるんだなと思いました。

定岡 そのくらい僕らOBもみんな熱くなったよね。

槙原 サダさんからはメール来なかったですね。「ダルビッシュの状況よくないからこれを伝えて」とか。

定岡 マキ、僕がそんなことするのは、お・こ・が・ましい(笑)。

槙原 あの準決勝、9回裏無死一、二塁の最後の打席、シノさんなら村上にバントさせますか。

篠塚 させないだろ。あそこまで信頼して使っていたんだからさ。

定岡 村上もバントがよぎったと言っていたよね。大谷も準々決勝のイタリア戦でしてたしね。

槙原 村上のバントはなかったと思いますが、栗山さんも牧原大成(ソフトバンク)をピンチバンターで準備させていたらしいですね。牧原は、緊張で唇が白くなって震えていたと言ってました。あんなところで出されたらきついですよね。

日本一カッコ悪い日本一ポーズ


槙原 シノさんが選ぶシーンは。

篠塚 驚いたのは、さっき出ていた大谷のバントだね。あれは頭になかった。

定岡 世界がびっくりだよな。

篠塚 あれから点を取ったし、彼の気持ちがね。シフトの隙を突いたセーフティーで自分の判断だと思うけど、普通の試合ならやらないでしょ。世界一になりたい、なんとか塁に出るんだという気持ちを感じた。あれは心に残っていますね。

定岡 チームのため、勝つためにだったよね。

槙原 あのときは極端なシフトで一、二塁間が狭くなっていた。いい当たりでもダブルプレーの可能性が高いと思って、確率論でやったらしいですね。視野の広さがすごいです。

篠塚 あれを見て、ほかの選手も絶対にいろいろ感じたと思う。そういう積み重ねが強さになったチームだったね。

槙原 サダさんはほかにありますか。

定岡 アメリカとの決勝の最後、トラウトとの勝負かな。最初スライダーで、そのあと4球真っすぐでしょ。9回裏二死1点差なのに、2人の勝負の世界なんだよね。それで最後、僕よりちょっと上のスライダーで空振り三振……いや、変なこと言っちゃった、ずっと上ね(笑)。あのボールの軌道はすごかった。見ていて、自分がこれを現役時代に投げられたら最強だったなと思った。

篠塚 あのスライダーは、日本ハム時代にはなかったよね。

槙原 あの場面、サダさんだったら……。

定岡 全部スライダーだよ。真っすぐは無理。

槙原 大谷の球にどんどん力が入っていったんで、これは三振かなと思いました。

定岡 トラウトも目いっぱい振ってくれたし、語り継いでほしい対決だね。

槙原 シノさん、トラウトは落ちる球を意識していたような気がします。

篠塚 あの試合、ずっと遅れていたよね。変化球狙いだったのかな。

槙原 調子が上がってなかった気がします。真っすぐに差し込まれるから変化球狙いにするしかなかったんでしょう。

槙原 それで最後は、あのジュリーみたいな帽子投げですが、その前にグラブも投げました。あれはお子様にはマネしないでほしいですが(笑)、サダさんはどう思いました。

定岡 いいんじゃないの。あの大会の大谷なら。何を投げてもいいよ。

槙原 あれはとっさでしょうね。用意はしてなかったと思います。僕も日本シリーズ(1994年)で最後投げたんですが、勝ったとき、用意してなかったんで、何となく勢いでやったら……。

定岡 ああ、カッコ悪いやつ。日本一カッコ悪いと言われたんだよな(笑)。

槙原 みんなに言われました(笑)。

大きかったダルビッシュ効果


定岡 マキは現地いたんだから、また違う見どころがあっただろ。

槙原 僕も刺さっているシーンは皆さんと同じあたりですか。向こうにいると、日本チームの礼儀正しさをすごく感じました。ダグアウトをきれいにし、胴上げ前にも、さっと整列にして歓声に手を振って、相手ベンチにもあいさつをする。最後まで相手をリスペクトしていました。アメリカのメディアにも、そういうところをすごく評価されていたんですが、あれって高校野球ですよね。

定岡 栗山さんも言ってたよね。決勝に行ったら高校野球をするって。

槙原 高校野球って悪いイメージがある人もいるからもしれない。丸刈り頭とか、理不尽な上下関係、猛練習とか。でも、経験者からすると、得るものがすごく多いんですよね。今回の侍ジャパンには高校野球に通じる清々しさを感じました。野球でも人としても完全優勝だったと思います。あれ、僕、すごくいいこと言ってますよね(笑)。

定岡 うん、マキも今回のWBCで成長したな(笑)。

篠塚 日本人の美徳が、ほかの国にうまく伝わったと思うよ。

定岡 今回は若い投手も自信をつけたと思う。高橋宏斗戸郷翔征伊藤大海とか、みんなよかったしね。

槙原 彼らの年齢を考えると、2026年の大会でも投手陣の力は落ちないなと思いましたね。

定岡 ダルビッシュがまとめてくれ、大谷が背中を見せてくれたよね。若い選手にはすごく勉強になったと思う。

槙原 特にダルビッシュの影響は大きいでしょうね。

定岡 キャンプから来たからね。あそこからチームの和をつくり、いろいろなアドバイスをした。彼は日本でもメジャーでも経験があり、それを教えられるから大きいよね。

槙原 滑るボールの握り方、変化球の投げ方、あとはトレーニング方法やサプリメントの取り方もアドバイスしていたらしいですね。ああやって各球団のトップにアドバイスすることで、日本球界全体のことも考えていただと思います。必ず、チームのほかの選手にも伝わりますからね。彼は、これまで試行錯誤しながら日本球界にはなかったトレーニングやピッチングを確立していった選手じゃないですか。あんな筋肉つけてどうするんだとか言われながら。だからこそ、今の選手には遠回りしないようにと思って伝えていたんじゃないかと思っています。次の世代を育てるという気持ちがあったんじゃないですかね。

定岡 でも、もう止まらないね。

槙原 はい。向こうに日本にいい選手がいるのを見せちゃいましたね。WBCに出たことでやりたくなった選手も多いでしょうし、これからメジャーに挑戦する選手する選手は、どんどん増えていくと思います。サダさんの好きなお金の話になりますが(笑)、千賀滉大(メッツ)は5年で100億円以上ですよ。絶対、止められないでしょ。

定岡 あのね、勘違いされないように言っておくけど、お金に汚いのはマキ(笑)。
槙原 いやいや、僕は汚くないです。好きなだけです(笑)。

定岡 僕はこう見えても、お金にはしっかりしてるんだよ。ね、シノ?

篠塚 うん?

定岡 あれ、シノは味方じゃないのか!(笑)。

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