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書籍『秋山翔吾のバッティングバイブル』 発売前に先読み!【後編】

【広島・秋山翔吾のバッティングバイブル】NPBシーズン最多安打記録ホルダーが、唯一無二の“打撃理論”を実演解説!

 

【書籍『秋山翔吾のバッティングバイブル』 発売前に先読み!<後編>】

前回に引き続き、5月2日発売予定の書籍『秋山翔吾のバッティングバイブル』から一部を抜粋。これまで日米通算で1600本以上のヒットを積み重ね、球界トップクラスの安打製造機として知られている広島・秋山翔吾選手。その技術の一端を特別公開する。

広島・秋山翔吾


「引く→行く」のリズムで動き自然と「割れ」が作られていく


 テークバックを取って打ちに行くとき、一般的には上半身と下半身が逆方向にしっかり捻れている「割れ」の状態を作ることが大事だとよく言われます。ただ、僕は意識していません。そもそも「割れ」は自分から作ろうとするものではなく、自然と作られるものだからです。

 僕は基本的な考え方として、バッティングというのは全身を使って「引く→行く」という動作をするものだと思っています。「引く」では、左足に体重を乗せながら左手も一緒に引いていく。「行く」では、右足を前に出して体重を乗せながら右手も一緒に出していく。体重移動としてはこの方法が最もロスが少ないでしょう。そして「割れ」というのは、踏み込んだ右足を着いたときに上の動きが自然と遅れてまだ後ろに引かれた状態になっているので、ヒッティングポイントまで距離が取れているということ。あくまでも、その瞬間の写真だけを切り取って「割れている」と表現しているのです。

 だからと言って、もちろん「割れ」を意識しないことが正解だとも言い切れません。たとえば大谷翔平選手(ドジャース)などは踏み込み足を着いたときに上体を後ろへ引きながら深く捻っているように見えますし、そうやって「割れ」をしっかり作ってヒッティングポイントまでの距離を最大に取れているからこそ、より大きなパワーを生み出せているのだとも思います。ただし、彼の場合はそもそも止まったところからでも振り切れるだけの力を備えていて、なおかつ体の使い方も上手なので、いったん力をフッと緩めながらバットを加速させることもできるのだと思います。

 一方、多くの選手は上体を後ろへ引こうとすると動きがピタッと止まってしまいがちで、そこから大きな力を生み出すというのもすごく難しい。僕もやはり「割れ」を作ろうとすると動きが止まってしまうタイプなので、動きながら「引く→行く」というリズムを大事にしています。そして、オススメの練習法はウォーキングのティー打撃。歩きながらテークバックを取って後ろに体重を乗せ、前に出ていきながらスパーンと振る。ノックを打つときと同じように手を後ろへ引くことになるため、動きを止めずに自然と「割れ」の状態が作られていきます。

スイング動作では、ウォーキングをしながら打ちにいくときの「引く」「行く」というリズムを重視。全身を使い、動きを止めずに自然と「割れ」の状態を生み出していく


投手のお尻が落ちるタイミングに自分の体の動きを合わせていく


 タイミングを合わせる際は、基本的には投手の「足が上がる」「お尻が下がる」に合わせて「引く」「行く」を調節するのですが、2023年の僕はシーズン途中にフォームを変更しているので、その前後では足の使い方が違います。「軸足:踏み込み足」が「9:1」の割合で立っていた“変更前”のフォームでは、左の足裏全面で体のバランスを取って重心を受けている感覚。ヒザや股関節をグッと入れ込んで軸足側に体重を乗せていく人もよくいますが、僕の場合、それをやるとどうしても捻りを使って大きく回しながら打つイメージが浮かんできてしまうので、採り入れませんでした。

 右足を上げて立つときは、左の足裏全体の上にしっかり足首、ヒザ、股関節が乗り、上からクッションを押すようにグッと体重を掛けます。そして、投手のお尻が落ちてくるタイミングに合わせてこちらも右足を踏み込みながら打ちに行く。タイミングの合わせ方としては、その部分に集中していました。

 一方、ほぼ「5:5」に近い割合で立っていた“変更後”のフォーム。まずは両足均等にバランスを取って立っているだけなので、どちらかに体重を乗せているわけではありません。そこから投手が足を上げたら右足をポンッと踏み、向こうのお尻が落ちてきたらパッと右足を上げて左足に体重をグッと乗せる。頭がブレるのは良くないので「右→左→右の体重移動」とまでは言いませんが、右足でワンクッションを入れてから上げることで勝手に左足に体重が乗る、という感覚です。僕の周りでも西川龍馬選手(オリックス)や近藤健介選手(ソフトバンク)などがこういう打ち方をしているので、わりと受け入れやすかったですね。

2023年は大幅な打撃フォーム変更を行ったため、足の使い方や体重の感じ方も変化。その中でも自分のスイングの間合いはしっかりと把握し、投手のフォームにタイミングを合わせていた


 ちなみに、止まっているところから右足をその場でただ上げ下げするだけだと、体重が前にズドンと乗って投手方向へ突っ込むリスクが高くなってしまうので、僕は右足を踏んだあとに1足分ほどスッと左に寄せて、動きながら上げるというリズムにしています。わずか1足分とはいえ、1歩引いて少しでも歩幅を狭くしておくことで動きのブレを小さくして足を上げる時間も確保できるので、僕にとってはすごく大切な要素。車のブレーキを離した状態でスーッと徐行運転しながら待ち、右足を上げてから少しずつアクセルを踏んでいくというイメージですね。

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