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BBB(BAY BLUE BLUES) -in progress-

異国でつかんだ初勝利――新外国人選手、R.ガゼルマンの素顔/BBB(BAY BLUE BLUES) -in progress-

 


 8月半ばのある日のこと。

 ファーム施設「DOCK OF BAYSTARS YOKOSUKA」の入り口にあるスクリーンに、“超人”のイラストが映し出されていた。添えられた文字は「WELCOME to YOKOHAMA」。シーズン途中加入の新外国人選手を迎え入れるために、ファームのマネージャーが用意したものだった。

 マンガ『キン肉マン』に登場するキャラクターと同じ名を持つ右腕、R.ガゼルマンはにこやかに言う。

「きっとドイツ系の家系なんだと思う。きちんとDNAを調べてみないと、たしかなことは言えないけどね。スペル(Gsellman)のせいか、アメリカではよく“ジゼルマン”とか呼ばれたりしたものだけど、日本人の“ガゼルマン”という発音のほうが本来のものと合っているんだ」

 不思議な縁に導かれるように来日してから、1カ月余り。未知なる選手像を紐解いていこう。


「勇気を持って決断した」


 ニューヨーク・メッツ傘下のマイナーからキャリアは始まり、メジャーでの初マウンドは2016年。翌2017年も含め、主に先発として登板を重ねた。2018年はブルペンに回り、68試合に登板、6勝(3敗)13セーブの成績を残す。

 その後は先発と救援をともに経験し、2022年からはシカゴ・カブスでプレーしていた。

 しかし、シーズン序盤のうちにマイナーに降格。出口が見えない日々を過ごすなか、遠く日本からのオファーは届いた。

「なかなか思いどおりにならない時期に、代理人から『ベイスターズからオファーが来ている』という話をもらったんだ。シーズン途中の移籍は難しいものだけど、話し合いを重ねた結果、これはすごくいいチャンスだという結論に至った」

 もちろん、ためらいが一切なかったわけではない。ガゼルマンは言う。

「海を越えて、知らない国へ独りで行く。そこに対する緊張感や不安はあったよ。一晩ゆっくり考えて、勇気を持って決断した。いま実際に日本にやって来て、その判断は間違いじゃなかったと思っている」

 日本での暮らしはスムーズに始まった。チームメイトや通訳らの助けがあり、何より本人に異文化に対する適応への積極性があった。だからこそ、「特に困っていることはないし、すごく居心地がいい」。

 チームの“先輩”外国人選手からは、「長い学びのプロセス。自分の常識とは違うと感じることも受け入れていくんだよ」と助言を受けたというが、少なくともここまでは違和感を抱くことなく、新鮮な暮らしを楽しんでいる。


一軍デビュー戦は厳しい結果に。


 日本式の野球に関する知識は決して多くなかった。

「伝統的な野球をするイメージ。ランナーが積極的に動いてくるとか、そういうスモールベースボールの印象はあったね。アメリカでは近年、ホームランか三振か、といった感じの野球が続いているから、そこはアジャストしないといけないなと考えていた」

 シーズンの佳境を迎えつつあった一軍の戦力となるべく、調整は急ピッチで進められた。来日から1週間後の8月18日にはファームゲームで最初の登板。ガゼルマンが振り返る。

「その時期のいちばんの目的は、日本の野球に慣れること以前に、試合勘を取り戻すことだった。最後に試合で投げてから、かなりの時間が空いていたからね」

 3試合に投げたところで、同27日、さっそく一軍昇格の機会がやってくる。首位スワローズとのゲーム差を縮めて迎えた直接対決3連戦のさなかだった。

 この日の試合に先発したのは石田健大だったが、3回3失点で降板。ガゼルマンは4回から2番手としてマウンドに立った。

 先頭の塩見泰隆にはゴロを打たせたが、これが内野安打に。不運な一打から始まると、塁に走者を溜め、2アウトまでこぎ着けながら一発を浴びた。

 デビュー戦は1イニング4失点という結果に終わったが、3つのアウトはすべて三振で奪った。経験豊富な右腕は、苦闘の32球を冷静に分析する。

「たしかに自分が思ったようにはいかないゲームになってしまった。でも自分としては、そこまで悪い内容ではなかったと思う。ただ1球のミスを相手が見逃さず、うまく打ったということ。それも野球の一部だから、そういうときにいかに下を向かず、前向きでいられるか。自分にできることは何かを考えることが大事なんだと思う」

 そして29歳は、こう続ける。

「それに、試合の雰囲気が本当にすばらしかったんだ。横浜スタジアム全体も、ベンチの中もね。すごく印象に残っているよ」


「カーブ」という新たな選択肢。


 ただ、登板1試合目の結果を受けて、投球を見直す必要があることは否めなかった。ゲーム後、投手コーチと振り返り、一つの修正案が出された。

「カーブを積極的に使ってみないか、という話をコーチからもらったんだ。アメリカではカーブを使うことは少なくて、スライダーを多く投げていた。だけど日本のバッターは打席でよく粘るし、スライダーだけでは決着がつかなかったり、野手の間にうまく転がされたりしていたから、新たな選択肢が必要だった」

 いったん登録を抹消されたガゼルマンが一軍に再昇格したのは、9月13日。同日のドラゴンズ戦で、今度は先発の役割を任された。

 独特の動きのある球と、磨きをかけてきたカーブを含む多彩な変化球。それらをストライク先行で投げ込んでいくことが大きなプランだった。

 バッテリーを組む伊藤光とも、事前にしっかりとコミュニケーションをとってきた。

「2日前のブルペンのときから捕ってくれて、いっしょに作業をしてきたんだ。自分がどういうボールを持っていて、どんな動きをするか、お互いに話をして、実際に見てもらった。そういう準備ができていたからこそ、試合当日は伊藤のサインにぼくが首を振ることはほとんどなかった。いいリードをしてくれて、それに乗っかって投げることができた」

 初回を三者凡退で抑え、2回の2アウト二三塁のピンチも切り抜けた。相手先発の高橋宏斗も好投を見せ、試合は投手戦にもつれ込む。

 ガゼルマンがポイントに挙げるのは5回だ。ヒットと犠打で1アウト二塁のピンチ。ここで土田龍空の放った打球は鋭い当たりとなったが、一塁手の佐野恵太がつかみ、飛び出していた二塁走者もアウトにして相手の攻撃を寸断した。

「すごく痺れたし、気合いが入ったシーン。あそこから、また勢いがついたと思う」


最後まで「ガンバリマス」。


 無安打に抑え込まれていた打線がガゼルマンの好投に報いたのは7回だ。先頭の関根大気が二塁打を放つと、佐野のセカンドゴロの間に進塁。牧秀悟の申告敬遠を挟んで宮崎敏郎のサードゴロが野選を誘い、待望の先制点がベイスターズに転がり込んだ。

 その裏、「ゼロをもう一つ並べる」と心に誓ってマウンドへ。最後は見逃しの三振で締めくくり、7回3安打無失点でブルペン陣に後を託した。

 虎の子の1点を守り切って、先発の右腕は来日初勝利。感慨深げに言う。

「1つ目の勝ち星を手にしたことは大きい。そのご褒美としてウイニングボールももらったよ。すごく誇らしいし、ケースに入れて、家に飾るのが楽しみ。でも、これを続けること、安定してパフォーマンスを発揮することが大事になってくる。プレーオフも含めて、チームの勝利に貢献することをこれからは考えていきたい」

 本人いわく、「落ち着いた性格。ちゃんと地に足をつけて物事を考えるタイプ」。その自己分析どおり、1つの勝利に浮かれることなく次に目を向けていた。

「ぼくが意識しているのは、強く終わるということ。必ず横浜スタジアムでプレーオフの戦いを見せられるようにしたいし、その中でぼくも投げたいと思っている。ベイスターズファンのため、横浜という街のために、最後まで腕を振り続けて勝利に貢献したい」

 日本に来て最初に覚えた日本語は「ガンバリマス」。入団会見に備えて必死に唱えたその一言を、シーズンの最後まで体現する。



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写真=横浜DeNAベイスターズ

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