週刊ベースボールONLINE

岩田稔『消えそうで消えないペン』

オンラインサロン活用法。新米社長の元阪神・岩田稔の新境地<連載第6回>

 

猛虎一筋16年、2021年シーズンをもって引退した岩田稔(現阪神CA、株式会社 Family Design M代表取締役社長)のあがき抜いた最後の数年。戦力外通告を受け止め、セカンドキャリアを見つけるまでの葛藤と信念とは。引退後初の自著『消えそうで消えないペン 1型糖尿病と共に生き、投げ切ったからこそ伝えたいこと』(ベースボール・マガジン社刊)より一部抜粋してご紹介する(全6回の6回目)。

オンラインサロンの開設


夢に向かってシステムを作り、挑戦を始めた岩田氏


 新米社長としての初仕事は、書籍の2章でも少し触れた「最初で最後の引退記念ファンミーティング」でした。
 
 売り上げの一部を1型糖尿病に関する取り組みに役立てるチャリティーイベント。1月23日の開催に向けて準備を進めさせてもらう中で、僕は今までどれだけ多くの方々に支えられてきたのかを再認識できました。
 
 イメージするキャパシティの会場を確保できるのか。人員は何人ぐらい必要なのか。1席の価格はいくらに設定するのか。新型コロナウイルス感染対策にスキはないのか。いざ主催者側に回ると、詰めなければならない作業がキリがないほど積み重なっていきます。
 
 阪神タイガースはもちろん、1型糖尿病患者・家族の会の連携組織の「日本IDDMネットワーク」、医療検査機器製造メーカーのアークレイ……。現役時代にサポートを続けてくれた皆さんの顔が次々に脳裏に浮かんでくる中、1人の社長としては感慨にふけってばかりはいられませんでした。

「何をするにしても活動費は必要になる。夢を実現していくためにも、まずはシステムを作り上げないといけない」

 そう痛感した僕は、新たなチャレンジに向けて本格的に動き始めました。それがオンラインサロンの開設でした。
 
 オンラインサロンと聞くと、なじみのない人の中にはお金の匂いを感じてしまう方も少なくないと思います。もちろん、ただ単に私腹を肥やしたいわけではありません。

 ビッグファミリーの皆さんがいつでも集まれる場所を作って、その空間をこれから1型糖尿病の啓発活動を行うためのベースにさせていただこうと考えたのです。

 今風にオンラインサロンと表現しましたが、言ってみれば1型糖尿病患者の夢を応援するためのコミュニティ作りからスタートしてみよう、というイメージですね。

 まずはクラウドファンディングでこのコミュニティ開設に必要な最低限のお金を調達させてもらう。コミュニティを開設できれば、僕の目標に賛同してくれた皆さんからいただいた会費のようなものを、1型糖尿病啓発活動の資金とさせてもらう。活動内容や資金の使途については必ず皆さんに報告させてもらう。

 お金の使い道に関しては、現時点では全国各地の1型糖尿病患者に会いに行く際の移動費や宿泊代などが頭にあります。

一度も明かしたことがなかった野望


 このような形にすれば「結局はお金儲けをしたいだけじゃないの?」と心配している方々にもある程度は納得してもらえるのではないかと考え、2022年2月15日、僕は満を持してクラウドファンディングの募集をかけました。

 コミュニティアプリの開設費用や初期運営費用などの必要経費を明確にして、目標金額を150万円に設定。コミュニティの名前は「岩田稔のビッグファミリー」とさせてもらいました。すると、自分でもビックリするぐらいのペースで多数のご支援をいただきました。本当に感謝してもしきれません。
 
 オンラインサロンの中身については早い段階から理想を描いていました。
 
 たとえば、1型糖尿病を抱えた子供がいるとします。この子が病気に関する質問を投げかけたいとき、現状では限られた知り合いの中から答えを聞き出すしかありません。でも、オンラインサロンに参加できれば、正確な回答を得られる確率はグッと上がります。
 
 ちょっとした疑問を投げかければ、僕が答えられるかもしれないし、(同じ病を抱える)元エアロビック選手の大村詠一くんが反応するかもしれない。ひょっとしたらヴィッセル神戸のセルジ・サンペールが割り込んでくるかもしれない。この3人よりも知識が深い方から的確なアドバイスをもらえる可能性だって大いにあると思います。

 特に新型コロナウイルス感染拡大の影響で人と対面しづらくなっている今だからこそ、誰でも気軽に出入りできるオンライン上でそんな場所を作っていきたいと思っています。

 僕には現役時代から掲げている夢があります。自分も含めた1型糖尿病患者を救いたい。この病気を1人でも多くの人に知ってもらって、偏見をなくしたい。そして、いずれは根治が可能な病気にしたい。そのためのベースとして、オンラインサロンというコミュニティ作りは効果的なのではないかと考えています。

 もっと言うなら、僕にはこれまで一度も明かしたことがなかった野望さえあります。

「1型糖尿病という病名をいつか変えてしまいたい」

 こっそり胸に潜ませていた企みをついに発表してしまったので、もう後戻りはできませんね(笑)。

 個人的には1型であろうがなんであろうが「糖尿病」という呼び名だから、いつまで経っても生活習慣病とされてしまうのだと思っています。ならばいっそのこと「インスリン欠乏症」といったような新名称に変えてしまえばいいのにと、随分前から考えていました。

 名前が変われば、メディアの皆さんも珍しがって話題に取り上げてくれるかもしれない。そうなれば、また病気を知ってくれる人も増えるかもしれません。

 オンラインサロンの開設に、病名の変更。賛否両論が出るであろうことは百も承知のうえですが、1人の1型糖尿病患者として、これからも既存の枠にとらわれることなく啓発活動を続けていこうと目論んでいます。

写真=BBM
©阪神タイガース

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