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栗山英樹監督が語る、人の育て方 大谷翔平からの学び――成長の差は思考の差

 

WBCで世界一奪還を果たした侍ジャパン・栗山英樹監督。その人材育成の核心を、好評書籍『ここで差がつく! スポーツで結果を出す81の習慣』(ベースボール・マガジン社刊)に収載された、著者・高橋宏文氏(東京学芸大学教授)との対談から抜粋して3回連続でお伝えしよう。2021年9月、日本ハムの監督を10年務めて語った人づくりの考え方とは。今回のテーマは「成長へのヒントをどう伝えていくか」。(3回連続の3回目)

本の言葉が生きる力になる


真剣に野球と向き合い、メジャーでも一流選手となった大谷[写真=Getty Images]


栗山 僕は先人の知恵というか、昔の人たちの言葉や本にすごく救われてきた。本当に自分が苦しいときとか、そういうタイミングで良い言葉に出会うんですよ。2500年も前を生きた孔子さんにヒントをもらったり。だから、選手たちにも僕が感銘を受けた本を渡すんです。生き方がどうとかを話しすぎると説教くさくなってしまうので。それよりは本をポンと渡して、あとは受け取った選手がどう感じるかに任せる。

高橋 栗山さんならではのアプローチですね。ちなみに、プロ野球のシーズン中って、本をゆっくり読む時間なんてあるのですか?

栗山 監督はすごくありますね。試合前のチームの練習中も選手のためになるのなら、僕はグラウンドに出ないで監督室で本を読み、一つでも多く勉強しても別にいい。選手が朝までバットを振っているのなら、僕も常に勉強しないといけないと思っているので。

高橋 ちなみに、今の選手たちは、本を読む習慣ってあるんですか?

栗山 あんまりないと思います。だからまずは入団してきた新人選手にある本を渡して、読む機会だけはつくります。どこまでしっかりと読んでいるかはわかりませんが。死ぬときにオヤジがあんなことをいってくれたな、というのに似た、人として生きていくうえで力になってくれる言葉が何か一つでもあればいいなと。胸に響く言葉が。現在チームのエースになった上沢直之とかは入団時に手渡した本を読んでくれていて「監督、あの本よかったですね」と、ふとした瞬間に伝えてくれたことがあって。そういう言葉ってやっぱりうれしいですよね。

高橋 そういった「なんらかの学び」を自身の成長につなげられるタイプと、自分の感覚だけでやってしまうタイプが僕はいると思っています。栗山さんはどう感じられますか?

栗山 それはすごくはっきりしていますね。やっぱり厳しいプロの世界で、才能だけでやるには限界があって、この選手にもし大谷翔平のような思考があったら、すごい選手になるのになっていう選手を過去にいっぱい見てきたので。その差って本当に大きいですね。

高橋 やっぱり学生なんかは本を読む子は感受性が豊かで、努力できる子が多いなと僕は感じています。逆に感覚だけでやってしまうような子は、そこからなかなか飛び出せないというか、広げられない。「深める、高める」という作業に入ったときに「こんな感じでいいんじゃない」というレベルで止まってしまうイメージがあります。

WBCで日本代表を世界一に導いた栗山監督[写真=Getty Images]


栗山 そうですね。活字離れも当然あると思いますが「本当にうまくなりたい」と心からヒントを探している子は、自分のほうから探しにいく感覚があるんですよね。そういう選手は、やっぱり力がついていきますから。

高橋 昔でいう野球バカといいますか。ポジティブに、本からでも何からでも、積極的に吸収できる子がいます。このように「物事に対して無我夢中の気持ちをもてるかもてないか」も、人が成長するうえで、大きな要因だと思います。ただ、それはどこでつくられるのかがわからない。ガンガン吸収しようとする子と、そうではない子。この違いは親なのか、育った環境なのか。じゃあそれがない子は今からでもつくれるのかなと思ったりして。僕自身迷いながら、難しさを感じています。

栗山 プロでも大学でも、入ってきた時点ですでにそれがつくられている選手がいます。つくられていない選手は、そこから何かを大きく変えるというのはすごく大変なことだし、それこそさっき話したきっかけが必要だと思います。たとえば、翔平なんかもそうですけど、明らかに僕に会う前の高校時代、親御さんたちとの環境の中で育まれ、すでにつくられていた感じだったので、学び方とかも含めて。

高橋 ちょっと話がズレてしまうかもしれませんが、選手をスカウトするときに、その子の性格なども評価対象にしていますか?

栗山 ウチのチームは徹底的にいきますね。人間性とかはとくに。スカウトたちとも「野球の能力自体は高くても、そういう部分ではどうかな」という話もすごくするので。だからといって、獲らないわけではありません。そこがあまりにもダメでも、ものすごく能力がありそうな子は「俺に預けてくれ」と。ほかのチームがリストから外していそうな選手でも獲りにいく。そこは博打かもしれないですけど、そういう子って大きく変わる可能性もある。だから人間性はすごく、いろんな面で重要視しています。

(対談は2021年9月収録)


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