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22年連続勝利の石川雅規の思考術 毎日ワクワクしながら眠りに落ちる

 

球界最年長選手、ヤクルト石川雅規投手(43歳)が5月10日、甲子園球場での阪神戦で日本プロ野球記録に並ぶ、入団以来22年連続勝利を達成した。今季最初の白星は、通算184勝目。200勝に向けて歩みを止めない「小さな大投手」を支えるものとは何なのか? その言葉と思考術をノンフィクションライターの長谷川晶一氏が描いた好評書籍『基本は、真っ直ぐ――石川雅規42歳の肖像』(ベースボール・マガジン社、2022年11月刊行)から抜粋してお伝えしよう。

「自分で自分に期待する」才能


5月10日の阪神戦で22年連続勝利のプロ野球タイ記録をマークした石川


「今までの人生で、生まれて初めて夢をつかんだのは甲子園出場でした。あのときは初めて“あぁ、夢をつかんだんだな”っていう感覚だったんです……」

 2022(令和4)年2月、キャンプ中に行ったリモートインタビューでのことだ。そして、問わず語りで、石川雅規は小さい頃の思い出を語り始めた。

「……小さい頃のことです。当時、めっちゃ野球も下手だし、身体も小さかったけれども、漠然となんですけど、“僕は将来、プロ野球選手になるんだろうな”って思っていました。そして、“もしも、プロ野球選手になったらどうしよう?”って思いながら、毎日ワクワクして寝ていたんですよ。その話を青木(宣親)にしたら、彼も小っちゃい頃、漠然と“野球選手になれるんだろうな、なったらどうしようって考えて寝ていた”って言っていたんです。それを聞いたときは、“オレと一緒じゃん!”ってすごく嬉しくなって……」

 どうして、こんな話題になったのだろう?

 改めて、当時のインタビュー音源を聞き直してみた。それは、僕が発したこんな質問がきっかけとなっていた。

――目標としている通算200勝達成に向けて、「今年は何勝、来年は何勝」といった具体的なヴィジョンは描いているのですか?

 彼が目指している200勝まで、この時点では残り23勝となっていた。この質問に対して、石川はこんな言葉を残している。

「気持ち的にはやっぱり今年と来年でやりたいですよね。だって、自分で不可能と思ったらもう不可能ですもん。自分でもそう信じてやっているわけなので。変な話、マー君が24勝0敗ってことは、23勝0敗したらいけるじゃんとか思いますね。だって可能性はゼロではないわけなので、常にうまくなれるんじゃないかと思ってやっているわけなので……」

 生真面目に語った後、笑顔でこうつけ加えた。

「……そこは、青木と村上(宗隆)と山田(哲人)にめっちゃ打ってもらってね(笑)」

石川の丁寧に低めを突くピッチングは変わらない


 石川が語った「マー君が24勝0敗」というのは、東北楽天ゴールデンイーグルスのエース・田中将大が、渡米前の2013(平成2)年に記録したシーズン成績のことを指していた。

 このとき、石川はこんな言葉もつけ加えている。

「マー君が実現できたのなら、僕にだって可能性はありますよ。だって、僕だって《マー君》なんですから(笑)。それに、僕の目標は(山本)昌さんですけど、昌さんは43歳のときに11勝しているんです。ちなみに、昌さんもマー君ですけどね」

「石川マー君」の笑顔が弾けた。ちょっと強気な発言をしたとき、あるいは生真面目に語ってしまったとき、石川はしばしば冗談を言って照れ笑いを浮かべる。

 石川の尊敬している山本昌氏は41歳となる06年、さらに43歳のときの08年にいずれも11勝を記録していた。

 田中が24勝0敗を記録したのであれば、自分も可能性はある――。

 山本昌氏が43歳で11勝したのであれば、自分もできるはずだ――。

 こう考えられるのが、石川の強みだ。

 経験を重ねるにつれて、人は自分の限界を自分で悟ってしまうようになる。それでも彼は、こうした経験則や固定観念にとらわれずに、「自分で自分に期待する」才能にあふれていた。取材を通じて、僕が彼の言葉に勇気づけられるのは、潔く、心地いい石川のこのスタンスのためだった。改めて、彼は言った。

「あと23勝できたら、“何か違った自分になれるんじゃないか”とか、“今までとは違った風景が見られるんじゃないか”というのを想像しながら、今は毎日布団に入っていますね。自分自身、“この先どういうふうになれるのかな”ってチャレンジできること、この年でまだ、現役で野球をできていることに感謝したいなって思いますし、野球選手でいられることにもすごく感謝しています。何よりも、“この先、自分はどうなるのかな”というワクワクがあることが、本当に幸せなことだと思っています」

 そして、冒頭で紹介したコメントに続くのだ。

 小学生の頃、「僕は大人になったらプロ野球選手になれるんだ」と何の疑いもなく、そう信じて眠ることができた。そして、それから40年近くが経過してもなお、石川は「自分は200勝できるんだ」と考え、ワクワクしながら床に就くのだという。

 なんと純粋で、なんと無垢なエピソードだろう。

「野球がうまくなりたい気持ちとか、ずっと野球をやっていたいという気持ちは子どものときと変わらないですよ。42歳でもまだガキのままなんですよ(笑)」

 これまで石川にずっと話を聞き続けてきた中で、この一連の発言は、僕の中でも特に印象深く息づいている。実にいい言葉だった。

写真=BBM


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