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山本由伸へ「正直、お前のことはよう分からん」――『みんな大好き能見さん』からの言葉【第1回】

 

3連覇をめざすオリックスが今年も上位で戦っている。投打ともに力を発揮し、雰囲気も明るい。チームを21年、22年とコーチ兼任投手として支えた能見篤史さん(元阪神、オリックス)は、選手たちから絶大な信頼を得てきた。能見さんはどんな場面で、どんな言葉をかけていたのか。6月に刊行された初の自著『#みんな大好き能見さんの美学』(ベースボール・マガジン社刊)より抜粋しご紹介しよう。今回は、山本由伸への言葉。

「これ、アカンで」から始まった


オリックスだけでなく、日本球界のエースとなった山本


 まず、とても頭がいい。由伸は、野球選手として僕とは次元が違うので、「正直、お前のことはよう分からん」と言っていました。

 あのレベルのピッチャーは調子がよくなくても勝ちます。「今日は状態がそんなによくないな」と見えても、きっちり抑えてくれる。チームにとってはありがたいことですが、力みが入るとそのよさが死んでしまうので、そこだけは注意深く見るようにしていました。

 初めて開幕投手を務めたとき(21年3月26日、対埼玉西武=メットライフ)は、ブルペンでめちゃめちゃ力んでいました。緊張もあったでしょう。力が入りすぎてボールがすごく弱かったので、ブルペンキャッチャーに言いました。

「これ、アカンで」

 でも、由伸にはあえて何も言いませんでした。僕自身、オリックスに入ってまだ数カ月でしたし、これからマウンドに上がる投手に余計なことを言って混乱させるのはよくないと考えたからです。自分で感じて投げるほうがいいかなと。

「楽しんで!」

 そう言って送り出しましたが、味方エラーもあり7回6安打4失点で敗戦投手に。翌日、「あれはさすがに無理やわ」と言うと、「先に言ってくださいよ」と苦笑されました。

 以来、自分でしっくり来ないときは、「僕、今どうなってますか?」と聞きに来るようになりました。試合中も、もちろん、気づいたことがあれば伝えます。

「もう少し、こういう体の使い方をしたほうがいいんじゃない?」

 言うとしてもこの程度です。もともと修正能力が高いので、あとは自分で考えて修正する。あのクラスはヒントをあげれば十分なのです。

エラーをした味方選手への振る舞いに鳥肌


 人間的にも優れています。突出した成績を残していても一切、天狗にならない。そんな人柄のよさはマウンドでも現れています。

 一番感心したのは、1点もやれないゲーム終盤の緊迫した場面で、味方がエラーしたときの振る舞いです。彼は大事な試合を任されることが多く、1点が命取りになることも珍しくありません。たとえば0対0のまま試合が進み、終盤に味方のエラーで先制点を許したとする。「うわ〜っ」という感情が表情に出てもおかしくないのに、彼はエラーをした選手に自分から声をかけに行くのです。

 僕ならどうするか?

 マウンドでは喜怒哀楽を出さないようにしていたので、表情は変えないと思いますが、内心、穏やかではいられません。「なんでそこでエラーなん?」と思ってしまうので、自分から声をかけるなんて絶対にできない。「すみません」と言われて、「大丈夫」とは答えますが、それはタテマエ……。

 でも由伸は、柔らかい表情で自然と声をかけに行きます。しかも大事な試合でそれができる。見ていて鳥肌が立ちました。

写真=BBM

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