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宮城大弥へ「オレには分かる。そのままじゃ勝てないよ」――『みんな大好き能見さん』からの言葉【第2回】

 

3連覇をめざすオリックスが今年も上位で戦っている。投打ともに力を発揮し、雰囲気も明るい。チームを21年、22年とコーチ兼任投手として支えた能見篤史さん(元阪神、オリックス)は、選手たちから絶大な信頼を得てきた。能見さんはどんな場面で、どんな言葉をかけていたのか。6月に刊行された初の自著『#みんな大好き能見さんの美学』(ベースボール・マガジン社刊)より抜粋しご紹介しよう。今回は、宮城大弥への言葉。

自分で考えて答えを見つけられる男


4年目の今季も順調に白星を積み重ねている宮城


 宮城は頭のいい選手です。だから、気づいたことがあっても全部は言わず、自分で考えて答えを見つけてもらうようにしました。

 プロ2年目の21年に開幕ローテーション入りを果たすと、いきなり13勝をマークしてブレーク。新人王も獲得し、翌22年も比較的順調に白星を積み重ねていました。でも6月下旬から勝てなくなり、約2カ月、足踏み。

 原因は分かっていました。ピッチャーは打たれると、その1回の記憶が強く残ります。通算では抑えていても、たった一度、「ここは打たれたらアカン」という場面で痛打を浴びると、その後のピッチングが変わってしまうのです。意識しすぎるんですね。それまで簡単にストライクを取っていたのに、ボール球が先行したり、明らかに攻め方が変わったりする。相手はまだ苦手意識を持ってくれているはずなのに、勝手に打者有利にしてしまうのです。

 僕自身も経験がありますが、ピッチャーとはそれくらい繊細なもの。22年シーズンの宮城にはその弱さが出ていたので、絶対に勝てないと思いました。

「オレには分かる。そのままじゃ勝てないよ」

 これしか言いませんでした。意地悪をしたわけではありません。本人の気づきが大切だと考えたからです。宮城なら自分で答えを見つけられる。その確信もありました。

 実際、彼は自分で考えて答えを見つけ、また勝てるようになりました。8月以降に5勝を挙げて2年連続2ケタ勝利(11勝)。連覇に大きく貢献してくれたことは、ファンのみなさんご存じの通りです。

 本人に考えさせるこの手法は、由伸という絶対的エースの存在と、ほかに計算できるピッチャーがいなければ使えませんでした。選手の将来を考えれば、自分で答えを見つけたほうがいいに決まっているのですが、条件がそろわなければ2カ月も待てません。“育成”という観点からオススメしたい手法ですが、会社などでは難しいでしょうか。

 宮城とはタイプの違う、すぐ答えを求めて来る選手には、もったいぶらずに言うようにしていました。考えさせるとパンクする選手もいるのでね。そういうピッチャーでも勝てるのか? 答えはYESです。今は多いかもしれません。身体能力が高いから、ある意味、頭を使わなくても抑えられるのです。野手にも言えることですが、考える野球の側面が少なくなってきたように思います。アメリカの“ベースボール”に近づいているというのか、力対力の勝負が多くなりましたよね。

 
それも野球の醍醐味ではありますし、メジャーで勝ち続けているピッチャーはちゃんと考えていると思うのですが、能力に頼りがちな選手が増えているのは、コーチをやってみて感じました。どちらかというと、リリーフに多いでしょうか。そういった世代が指導者になったとき、日本の野球はどうなってしまうのか……ちょっと心配ではあります。

写真=BBM

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