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宇田川優希へ「お前、顔に出したやろう。テレビに映ってたぞ」――『みんな大好き能見さん』からの言葉【第4回】

 

3連覇をめざすオリックスが今年も上位で戦っている。投打ともに力を発揮し、雰囲気も明るい。チームを21年、22年とコーチ兼任投手として支えた能見篤史さん(元阪神、オリックス)は、選手たちから絶大な信頼を得てきた。能見さんはどんな場面で、どんな言葉をかけていたのか。6月に刊行された初の自著『#みんな大好き能見さんの美学』(ベースボール・マガジン社刊)より抜粋しご紹介しよう。今回は、宇田川優希への言葉。

今それ考える? と突っ込みたくなる「天然」


昨季、育成から支配下に昇格し、日本代表にまで上り詰めた宇田川


 個性的といえば、この選手を忘れてはいけません。23年のWBCでもかなり話題になりましたね。

 宇田川は育成選手から22年シーズン途中に支配下選手登録され、台頭。最初はもちろん大事な場面での起用はありませんでしたが、結果を残してどんどん“昇格”していきました。そのまま一気に日本代表にまで駆け上がったのですから、すごいことだと思います。

 彼をひと言で表現するなら「天然」。野球をまだあまり分かっていないし、今そんなこと考える? と突っ込みたくなるようなこともしてくれます。

 優勝争いをしていた22年9月13日の東北楽天戦(楽天生命パーク)。3対3の8回途中から登板した宇田川は、イニングまたぎで9回も続投しました。二死二塁のピンチを招き、ベンチが岡島豪郎選手を申告敬遠という指示を出すと、宇田川が「えっ」みたいな表情をしたのです。それがブルペンにあるテレビに映し出された。

「アイツ、顔に出しやがった」

 ブルペン担当の厚澤和幸コーチとそういう話になり、「どういう心境だったのか、僕が聞きます」と言いました。それまでなかったことなので、“慣れ”がそうさせたのかと思ったのですが……。

「お前、顔に出したやろう。テレビに映ってたぞ。勝負したかったんか?」

 試合後、宇田川に尋ねると、彼はこう答えました。

「いえ、違うんです。申告敬遠も自分の四死球の数に入ると聞いたので、それが嫌だったんです」

 あの場面でそれ考える? 1点もやれないサヨナラの場面で? あきれましたが、それが宇田川という男。本当に天然なんです。

「調整不足」でも「順調」?


 まだまだ自分の体を分かっていないところもあります。オフに体重を6キロ増やして23年のキャンプにやって来て、中嶋聡監督から「調整不足」とバッサリやられました。もちろん食べすぎて太ったわけではありません。トレーニングした上での増量ですが、今の彼に6キロは増やしすぎ。投げる感覚が変わってしまいます。

「投げ方が変わったんちゃう? 今までできていた動きができないのでは?」

 そう聞くと、彼は否定しませんでした。

 体重を増やしたいと聞いたとき、「やめておけ」と言ったんです。「今のままで十分。せっかくいい状態なんだから」と。でも、球速を上げたいと思ったのか、6キロも増やしてしまった。体を大きくすることがいけないとは言いませんが、自分の体を分かった上でやらないと、股関節の動きが悪くなるなどの弊害もあります。今回に関しては、プロとして、日本代表としての自覚が足りなかったと言わざるを得ません。WBCで迷惑をかけなくてよかったです。

 そんな宇田川ですが、僕がキャンプ取材に行って調子を尋ねると、テレビカメラの前で「順調です」と答えました。

 おいおい、ちょっと待て。それはないやろ。監督に注意されて、メディアでも大きく報じられたのに。もちろん、撮り直しです。でも「順調です」以外の言葉がなかなか出てこなくて、僕に助けを求めてニヤニヤ笑う。テークスリーでやっとOKとなりました。

写真=BBM

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